M.M Doki Doki Literature Club!




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 8 82 4〜5 2018/5/20
作品ページ サークルページ



<なる程、世の中で話題になる理由がよく分かりました。また一つビジュアルノベルの次元が上がったな、と思いました。>

 この「Doki Doki Literature Club!(以下DDLC)」という作品は「Team Salvato」というDan Salvato氏が率いるアメリカの制作集団で制作されたビジュアルノベルです。この作品をプレイしようと思った経緯ですが、普段自分が作品を選択する経緯と大きく異なっております。大凡半年前からでしょうか、私の知り合いの方やTwitterのフォロアーの方々と会う度にこの作品の話題が出るようになりました。そして殆どの方が「直ぐにでもプレイした方が良い」と口々に言うのです。それはビジュアルノベルのプレイヤー、サークルの方々の双方からでした。これだけ多くの方から強く勧められるのならさぞ面白いのだろう、と思い機会があればプレイしようと思っておりました。

 ですが、2つだけ奇妙な点がありました。それは「ネタバレ厳禁」であるという事と「プレイ時間」について濁すという2つの点が共通していたのです。これだけ多くの人がプレイしているのにも拘らず大部分の人が共通の認識を持っているのです。事実、インターネットで検索しても必ずどのHPでもネタバレ厳禁と注意書きが書かれております。なる程、これはきっとシナリオ云々ではなく何か面白い仕掛けが待っているのだなと思いました。ただ感動させるシナリオや熱いシナリオでは、感想に個人差が出ますからね。元々アメリカ産の作品という事で英語しかないのですが、有志の方が日本語パッチを制作される程の作品です。どのような世界が待っているのか、そして「Doki Doki Literature Club!」という可愛らしい名前の先に何が待っているのか、楽しみにプレイ始めました。

 舞台は日本の高等学校です。主人公はどこにでもいる普通の学生であり、これといった取柄もありませんでした。ある日、幼馴染であるSayoriに「文芸部に入ろう!」と声を掛けられます。特に本を読む習慣も無かった主人公は始めは文芸部への入部に消極的でしたが、Sayoriの強いプッシュと文芸部員である部長のMonika、Natsuki、Yuriの3人と会話をしていく中で文芸部に入部する事を決めます。文芸部の活動は、イメージ通り読書や作品の批評や詩を書く事です。そのような活動にこれまで触れてこなかった主人公ですが、文芸部の皆さんと共に触れていく中で少しずつ活動に慣れていきます。それと同時に、文芸部の可愛い彼女たちが気になるようになっていきます。どこにでもある普通の学園ものですが、その結末には驚くべきものが待っておりました。

 最後までプレイして、まずは他の皆さんが仰っている通りネタバレは厳禁です。正直言って、何を言ってもネタバレになる気がします。少なくとも言えるのは、ビジュアルノベルの要素である「文章」「絵」「音楽」とそれを繋ぐ「スクリプト」を最大限活かした演出が待っているという事です。正直、プレイ開始1時間くらいは「普通だなぁ」と思いながら単調にプレイしていきました。ですが、その先に待っているターニングポイントからDDLCの素顔が見えてきます。そこからはクリックする手が止まりませんでしたね。一気にEDまでプレイしてしまいました。まずはプレイしてみて下さい。私が何を言いたいのかは、プレイしてみれば直ぐに分かると思います。なる程、世の中で話題になる理由が分かった気がしました。見事だな、とも思いましたね。

 プレイ時間は私で4時間30分程度でした。上で周りの人が「プレイ時間」を濁すと書きましたが、これは作品の性質上プレイ時間が人によって大きく変わるからです。それはシナリオが難しいとか易しいとか、選択肢が複雑だとかそういった単調な理由ではありません。これも、プレイすれば自ずと意味が分かると思います。何れにしても、確かにこれまで見る事が無かった魅力が詰まっている作品でした。正直、粗削りな部分はあります。それでも、この作品がやろうとした取り組みは「また一つビジュアルノベルの次元を上げたな」と思わせる物でした。本当、ネタバレ無しで多くを語れないのが残念です。具体的にはネタバレ有りで書いておりますので、是非プレイ後に読んで頂ければと思います。まずはやってみましょう。全てはそこからです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<正直粗削りだと思いました。だからこそ、プレイヤーとヒロインの距離がグッと近づいた気がします。>

 これまで様々なビジュアルノベルをプレイしてきて、いわゆるメタ作品と呼ばれる作品も数多くプレイしてきました。それらどの作品もシナリオを駆使し演出を駆使し選択肢を駆使し、プレイヤーとゲームを何としても繋げようという気概のあるものばかりでした。その中でも、今回プレイしたDDLCは抜きん出たメタ性を持っていた気がします。これまでの作品は基本的にはスクリプトの中で完結していましたが、DDLCはその壁を破ってきたのですから。発想もそうですが、昨今のビジュアルノベルはここまで技術が進歩しているのかと素直に驚きました。

 最後までプレイして、暫くはメタ要素と技術進歩の余韻に浸ってました。純粋に凄かったなと思いました。ですが、そこから少し時間を置いて、1つ根本的な疑問に至りました。結局のところ、Monikaという女の子はどういう存在だったのでしょうか?彼女はDDLCのキャラクターの1人として扮してましたが、その実態はDDLCのスクリプトをいじる事が出来る限りなくリアルに近い存在でした。最終的には他のキャラクターの存在を消し、DDLCを起動すればそこにはMonikaしかいない空間を作り出しました。後はひたすら彼女とイチャイチャするだけです。まるで現実にいるかのような存在でした。ですが、そんなMonikaでも所詮は二次元のキャラクターでした。プレイヤーが「monika.chr」というファイルをクリック1つで消すだけであっけなくMonikaだけの世界は消えてしまったのです。

 Monikaの目的は大好きな主人公とずっと一緒にいる事でした。それは二次元だろうと三次元だろうと変わらない当たり前の感情でした。そして、Monikaはそんな自分の純粋な気持ちに素直になっただけでした。始めは文芸部の皆と面白おかしく過ごす日常を楽しんでました。ですが、他の3人が持つ欲望や想いが徐々に膨れ上がっていき、面白おかしいはずの日常は狂気を孕んだものになってしまったのです。これではいけない、そう思ったMonikaはスクリプトを書き換え当たり前の日常を戻そうとしました。2週目の時々世界がゆがむのは、狂っていく日常を面白おかしい日常に戻そうとするMonikaの奮闘の軌跡だったんですね。それでも狂気を止める事は出来ませんでした。もはや、彼女たちの存在を消すしか方法はありませんでした。ですが、それはMonikaが心から望んだ結末ではありませんでしたね。

 プレイヤーが「monika.chr」というファイルを消した事で、Monikaは自分が行ってきた行動の意味とその取り返しのつかなさに気付きました。併せて、自分は主人公が好きなのと同時に文芸部というあの空間が好きな事にも気付けました。だからこそ、4週目では自らの存在を消し、主人公とヒロイン3人という今度こそ面白おかしいラブコメの世界を作り上げました。ですがそれでもDDLCは終わりませんでした。新たに部長になったSayori、そして部長になる事で世界の秘密に気付くのです。世界の秘密に気付き、主人公を自分のものにしようとSayoriは思ってしまいました。きっと、部長になった人は世界の秘密を知らされるんですね。そして、自分の理性と欲望の果てに、主人公を自分のものにしたいと思ってしまうのでしょう。こんな事実、知ってしまったら誰でも狂ってしまうと思います。ある意味純粋な気持ちの表れなんだなと思いました。だからこそ、Monikaは最後の力を使いDDLCというゲームそのもののスクリプトを消し去りました。最後に残ったのは1枚のメッセージ、どこまでも真っ直ぐなMonikaの最後のメッセージでした。

 物語開始1周目。4人のヒロインは自分の気持ちを詩という形で表現しておりました。文体や形式はバラバラでも、そこに込められた想いの大きさは変わりませんでした。最後EDで流れる曲は、元々はタイトル画面で流れるBGMにボーカルを加えたものです。やはり、タイトル画面で毎回当たり前に流れる曲だからこそMonikaも愛着を感じたのでしょうか。そして、彼女たちにとって詩を書く事はまさに得意分野ですね。これは誰が何と言おうと揺るがない事実です。そうであるのなら、ボーカルを加える事くらい造作もないですね。自分が一番表現しやすい方法で主人公への気持ちを表したMonika。そんな純粋な心の一端を見る事が出来ました。

 振り返れば、プレイヤーに操作させる事を強制させた稀有な作品でした。昨今のビジュアルノベルはここまで進化したのかと純粋に思いました。メタ作品を作る上で、1つ次元が増えた感覚になりました。それでも正直言いまして、このメタ設定ありきの作品だったと思いました。どのキャラクターも個性的で魅力あふれるのですが、パーソナリティが確立する前にホラー部分が顔を出すのが早かった印象でした。それでも、Monikaを中心としたヒロイン達の素直な気持ちは伝わりました。後は、是非このDDLCが示したヒントを道標として、世界中の方が閃いたものを読んでみたいですね。メタ要素も勿論ですが、途中のホラー演出やスクリプト書き換えの演出なども洗練されておりました。まさにビジュアルノベルの魅力を十二分に活かした作品だと思いました。まだまだ面白いビジュアルノベルは生まれてくる、これからもそんな作品に会いたいと思いました。ありがとうございました。


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