M.M DAGGER 戦場の最前点




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 6 - 85 5〜6 2013/7/15
作品ページ サークルページ



<純粋なファンタジーの世界観で描かれる生き生きとした人物に囲まれた成長物語>

 この「DAGGER 戦場の最前点」は、同人サークル「The sense of sight」で制作されたサウンドノベルです。「The sense of sight」さんに初めて出会ったのはSC59で同人ゲームサークルを回っている時でして、サンクリ自体同人ゲームを出されるサークルが少めである事もありましたので当初からビジュアルノベルを出している全てのサークルの作品を買うつもりで回ってました。そういう意味でこの「DAGGER 戦場の最前点」が目的でサンクリに参加した訳ではなく一緒に買った他の同人ゲームの1つ程度の認識でしたが、昨今の同人ゲームにはありそうで中々ない純粋なファンタジーという事で興味を持ちプレイするに至りました。感想ですが、争いが日常的にある厳しい世界の中で自分の存在価値を見出す少女の強さを感じる事が出来る読後感の良い作品でした。

 OHPをご覧になれば分かりますが、この作品の世界観は人間・魔族・精霊族の3種族が存在するファンタジーの世界です。当初は3種族とも争いもなく平和に生活していたのですが、やがて資源の枯渇と共に戦争を始めるようになります。ですが戦争によりどの種族も消耗し共倒れになる事を危惧した各種族の王は種族不可侵という約束を取り次ぎ、戦争は一時の終息を見せます。ですがそれは仮初めの平和であり、資源の枯渇という根本的な問題を解決していない各種族は一食触発の状況です。物語はそんな不安定な世界情勢の中人里離れた森にすむ1人の男と街の片隅に捨てられた少女が出会うところから始まります。

 とまああらすじを簡単に書かせて頂きましたが、ご覧の通り純粋なファンタジーの世界観であります。作中には戦闘描写はもちろん剣技や魔法もふんだんに登場し、また騎士・貴族・王族など西洋の世界観を感じさせる人間社会も描かれておりますのでどっぷりとファンタジーの世界に浸る事が出来ます。こういった作品は現実世界とは全く違うものですので世界観や登場人物の設定を徹底して表現する事がシナリオの重みを決めると思うのですが、細かな部分まで書かれており登場人物のキャラクターも正義感のある人から悪役までそれぞれの立場で確立しておりますのでグイグイとプレイヤーを物語に引き込んでくれます。もちろん背景やBGMもロールプレイングゲームを髣髴とさせるようなものばかりで、ファンタジーな世界観を後押ししてくれます。

 そしてこの作品の最大の特徴は登場人物の魅力ですね。上でも書きましたが正義感のある人から悪役まで様々なキャラクターが登場し物語を盛り上げてくれます。時には優しく時には気に入らないキャラクターも登場しますが、そういったパーソナリティを徹底して描く事でシナリオに深みが生まれているのだと思います。一言で言えばどのキャラクターも生き生きとしているんですね。主人公である男とヒロインである少女は事情により人に疎まれる存在なのですが、そんな主人公とヒロインの周りを取り囲む人物が生き生きとしている事でシナリオが進んでいく印象です。そんな厳しくも優しい世界観と登場人物の中で描かれる主人公とヒロインの成長を是非本編で感じて欲しいですね。

 ちなみにプレイ時間は多少長めで、サークルの方では10時間程度を見た方が良いという事です。ですが私は6時間程度で読み終える事が出来ました、これは恐らくファンタジーな世界に引き込まれた事に加えて画面に表示される文章の行数が最大2行であった事があると思います。これはねこねこソフトの作品をプレイした時に思ったのですが、画面に1度に表示される文章がある程度短い事は文章を速く読み進める事に一役買っているみたいです。簡単に言ってしまえばクリックが進むんですね。この様に読むという行為を阻害しない工夫は大変好感を持てました。一番大切な事なのに一番気づきにくい点だと思いますね。そんな感じで気が付けばエンディングにたどり着いていたという印象ですが、この作品はまだ第一章です。現在第一章のアナザーシナリオと第二章まで発売されておりまして既に私の隣に積んでありますので、これを書き終えたら早速プレイしようと思っております。久し振りに純粋なファンタジーを楽しむ事が出来ました。是非多くの方にプレイして頂きたい作品です。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<全ての要素が主人公とヒロインの魅力を表現する為に用意されたと思える程まとまった内容でした>

 熱く魂を揺さぶられるシナリオでした。戦場の最前点と人々から疎まれた主人公と誰からも必要とされなかったヒロインの心の結びつきは素直に応援したくなるものであり、そんな主人公とヒロインに降りかかる権力や武力による障害を乗り越えようとする気持ちは心を震わせるものがありました。そしてそんな主人公とヒロインを見守り支える他の登場人物も大変魅力的であり、厳しくも愛情を持って接してくれる温かい雰囲気にどのような困難にも打ち勝てる雰囲気を感じました。

 この作品はとにかく主人公とヒロインを始めとした登場人物1人1人の魅力が光ると思いました。ライズ&セットのカルナス一家は基本的に友好的ですがそれは決して甘やかすという意味ではなく見守り必要であれば支えるというまるで実の息子に接するかのような愛情でした。主人公の師匠であるセイルス夫妻も自分の力を誇示せず必要と思った時に表に出し、主人公とヒロインの良き相談役でした。他にも職人魂を感じる武器屋のロウや力のあるものに正々堂々向き合う騎士団や魔族の人々にも好感を持てました。逆に庶民を見下し主人公を徹底的に毛嫌いする貴族やヒロインを蔑むクリアデルのチンピラやリンダントは絶対の悪役として描かれており、登場人物のみならずプレイヤーも巻き込んで気持ちを1つにまとめる事が出来たと思っております。

 そして主人公とヒロインの2人の視点でシナリオを描くマルチ視点も大変効果的に働いたと思っております。元々主人公もヒロインも人付き合いが苦手という事もあり、心の中で思う事を素直に口に出すことが苦手でした。そういう意味でもお互いがどのような心情なのかを把握する意味でもそれぞれの視点でシナリオを描くことは必然でした。特に主人公が不器用ながらもヒロインに気を使う様子やヒロインも不器用ながら主人公に感謝の気持ちを伝える様子はこそばゆいものがあり、私も何か恥ずかしいような気持ちで文章を読み進めておりました。このようなきめ細かい心理描写が良い意味で印象に残るシナリオに繋がったのかなと思っております。

 そんな丁寧に描かれたシナリオの中でヒロインであるアイシスの成長の様子は素直に嬉しいものがありましたね。初めは誰も信じる事が出来る自分の気持ちをどうやって表に出せばいいのか分からなかった訳ですが、最後には自分の意志で主人公であるティストを守りティストの傍にいる事を決断するまでに成長しました。まるでプレイヤーがアイシスを育ててきたような錯覚さえ覚えてしまいます。それ程までにアイシスが魅力的であり、マルチ視点と他の登場人物の魅力も相まってプレイヤーの心を震えさせる結果につながったのだと思っております。ここまで愛らしいヒロインは中々お目にかかる事はありませんね。シナリオと演出と全ての要素をつぎ込んで完成させた魅力だと思っております。

 という訳で物語中のありとあらゆる要素が全て主人公とヒロインの魅力を表現する為に用意されたと思える程にまとまった内容でした。純粋なファンタジーという事で唯でさえその世界観を確立させるだけで苦労されたと思いますし、それに加えて魅力的な登場人物を用意しマルチ視点で主人公とヒロインの心理描写を表現する文章力には久しぶりに時間の経過を忘れて引き込まれました。加えて場面場面に合ったBGMも緊張感を作り、プレイヤーの気持ちを高揚させてくれたと思っております。ファンタジーは良いものだろ久しぶりに思う事が出来た作品でした。ありがとうございました。


→Game Review
→Main