M.M CyberRebeat




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 - 85 8〜9 2015/7/13
作品ページ サークルページ
フリーゲーム夢現



<これはネットが当たり前になった今の時代にふさわしい「現代のビジュアルノベル」>

 この「CyberRebeat」は同人サークルである「E.N.Nach」で制作されたビジュアルノベルです。「E.N.Nach」さんと初めて出会ったのはC86で島サークルを回っている時でして、その時に手にとったのが今回レビューしている「CyberRebeat」です。手にした当時はSteins;Gateの様な想定科学的な内容なのかなと思い、多少興味を持ちつつも直ぐにやってみようという程の引きつけは感じませんでした。ですがその後Twitter等で何度かこのタイトルを目にするようになり、そういえば自分も買っていた事を思い出しいい加減プレイしてみようと思い現在のレビューに至っております。感想としては、ネットが当たり前になった今の時代にふさわしい「現代のビジュアルノベル」だなという印象でした。

 現代の生活にネットは欠かすことが出来ません。今や人との通信手段は手紙はおろか、電話ですらなくLINEが主流と呼べるかもしれません。そして行き交う人々の手には本などではなくスマートフォンです。いつでもどこでも誰でも簡単にネットの中へ入り様々な情報を入手することが出来ます。そして情報を入手するだけではなく自分から発信する事も容易になりました。それもHTML言語を学んでHPを作る必要もありません。Blogですら古いかもしれません。今やTwitterやFacebookなどのSNSで簡単に自分の情報を発信でき、またリアルタイムで他人の情報を入手する事が出来ます。これはほんの10年前には想像も出来なかったこと。世界の情報化は余りにも急速に進んでおります。

 それだけネットを利用した生活が当たり前になっている以上、そんなネットを利用した犯罪が起きるのも世の恒という物です。テレビやニュースサイトを見れば、名の知れた大手企業の顧客情報が流出したとかサーバーがウィルスに感染したなどという話題をよく見かけます。またTwitterやニコニコ動画などへの不適切な投稿により多額の損害を被る事になった企業も多数存在します。そして本人には何も意識がなくても、知らず知らずのうちにネット社会の中に取り込まれており何もしなくてもネット社会の流れの中で振り回されております。本作は、そんなネットが蔓延しているこの現代に対する警鐘、そしてたとえネットが当たり前になっても人との繋がりは不変であるというテーマを訴えたかった作品だと思っております。

 主人公はネットカフェでその日暮しをしている自称フリーターです。深夜の割の良いバイトをしながら、個性的なメンバーが集うそのネットカフェを根城にして生活しておりました。そんな中、主人公にライターの仕事を与えてくれたとある出版社が火事で全焼する事件が起こりました。その事件の陰に見え隠れするハッカーの存在。その名はかつて世界中に名を轟かせた「Warlock」。この事を切っ掛けに主人公は姿かたちも分からない伝説のハッカーWarlockを追いかけますが、この事が主人公の運命を大きく動かすことになります。

 この作品の特徴は何と言っても専門的な情報システムの知識量です。主人公を始めとした登場人物たちはそれぞれの形でハッカーを追いかけるのですが、勿論ネットの中を駆け回りますのでそれなりの知識が必要です。正直な話、システムエンジニアや情報系の大学を出てない限り理解する事は難しいと思います。平たく言えば彼らが何をしているのか分からないのです。ですが自分に専門的な知識がなくても特に問題はありません。作中の雰囲気や登場人物達の心情は伝わりますし、分からないながらも少しずつ物語のピースが繋がっていく感覚は見事なものがあります。プレイ開始30分くらいはもしかしたら取っ付きにくいかも知れません。ですが少しずつ謎が提示されそれに迫っていく中で更に大きな謎が提示される、そしてそれがどのように解決していくのか気になっていく、人によっては寝食を忘れて没頭する事と思います。

 そしてそんなシナリオを演出する登場人物達は非常に個性的です。皆さんがネットに没頭している人やシステムエンジニアにどのような印象を持っているか分かりませんが、割と皆さんのイメージ通りかそれ以上のかなりニッチな性格の人物が多数登場します。ですが決して不快になることはありません。何故なら彼らは紛れもなくネットに精通したプロなのですから。始めはまとまりのない烏合の衆に見えますが、そんな彼らが一つの目標に結集した時はとんでもない力を発揮します。その力は私たち素人から見たら神様のような力。彼らがどのようにハッカーと戦い、事件を暴いていくのか是非楽しんでもらいたいですね。

 プレイ時間は私で8時間掛かりました。8時間かかりましたが、気が付けば8時間経過していたという方が正しいかも知れません。それだけ加速する展開に夢中になってしまい、頭の中で埋まらないパズルのピースを求めて貪欲にクリックしてしまうことと思います。選択肢はありませんので、分岐を気にせず純粋に物語のゴールを目指す事が出来ます。是非彼らの生き様を見ながら、現代のネット社会について改めて振り返ってみては如何でしょうか。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<相手を思いやる気持ちは、ネットの外でも中でも共通ですね。>

「僕は、いったい何者になったつもりでいたのだろう。」

 始めは些細な切っ掛けでした。通学中に目にしてしまったとある企業のリストラされた社員による集会、それが真波司にとって初めてネットとリアルの世界を繋いだ出来事でした。一般人よりも遥かにネットの世界に精通している真波司、そんな彼が決してネットの中で生きようとしない理由でした。ですがそんな真波司が再びハッカーとして立ち上がりました。それは大切に思っていた同級生である小野寺綾がハッカーにより意識不明の重体になったからです。ですが敵は思ったよりも強大でした。何しろ国家レベルの組織ですからね。それでもどこかで真波司は勝てると思っていたのでしょう。真波司もまた、本当の意味でネット社会の本当の深さと怖さを認識していなかったのですね。気が付けば遠いところまで突っ走っていた真波司。そんな彼が改めて振り返ったとき、自分の立ち位置に疑問を持ってしまいました。それが彼の最後。一度はKARMAによって自分を失ってしまいます。

 ネットって、取っ付きやすそうで実際のところどのような仕組みか理解して使っている人は殆どいないと思います。私もそうです。そしてこれってとても怖い事です。手紙であれば、自分で文字を書いて郵便ポストに入れてそれを郵便屋さんが収集して相手のところに届けるのです。誰でも分かります。ですが、今あなたがTwitterで呟いた言葉がどのように世界中へ発信されるかシステム的に説明できるでしょうか。きっと多くの人は「あいうえお」と呟いたらそのまま無線で「あいうえお」と情報が飛ぶのだと思っているのです。これがネット社会の危ないところ。ネットの技術に大衆が追いついていないのです。だからハッカーがいるのです。だからウィルスが蔓延するのです。あなたは何を信頼してネットを使っているのでしょうか。何も考えずにパスワードを決めていませんが?クレジットカードの情報をむやみにPCに記録していませんが?とりあえずウィルスソフトを1つ入れればもう何も怖くなないと思っていませんが?自分の情報には価値がないと思っていませんか?ネットの世界って目に見えないんですよね。だから自分の立ち位置が分からなくなり、気が付けば取り返しのつかない事になるのです。CyberRebeatの中でも何人もの人物がそうやって後悔し涙を流してきました。

 EDを見て振り返ってみれば、何ともまあ分かり易い骨組みでした。登場人物たちはネットに何らかの形で関わりを持ちネットによって何らかの形で愛する人を失ってました。そしてその愛する人の無念を晴らすため、また再びその愛する人を取り戻すために立ち上がりました。最終的に諸悪の根源であるKARMAを封印しましたが、彼らの感情は何も特別尊いものではありませんでした。余りにも人間臭いんですよね。個人的な恨みなんです。たまたまその相手が共通であり強大であった為、ドラマティックに見えただけです。だから中沢まひろは問うたのです、「正直なところどうなんだ?」と。ハッキングする事は個人的な恨みを晴らすことだけではありません。それは少なからず世界中の人々の生活に影響を与え、ともすれば自分自身が殺される危険も伴うものです。ハッキングは時には不正を正す正義の剣でもあり時には人の生活を奪う悪魔の杖です。それは表裏一体。大事なのは、自分がそうした重要な立場の中心になりうるという覚悟を決める事でした。

 そしてこれは決してCyberRebeatの世界の中だけの話ではないのです。上でも書きましたが、私たちが日頃使っているスマホでも同じ事が出来るのです。何気ない様なあなたのその呟き、それによって顔を知らない多くの人の生活に影響が出ると気づいていますか?そしてあなたのその呟きによって誰かの生活が失われたとき、あなたにはそれを償う覚悟がありますか?ネットが開かれているという事は自由であるということ、そしてそれは同時に責任も伴うということです。ネットの中の犯罪者はハッカーだけではありません。ウィルスを作った人だけではありません。今目の前にいる一人一人が犯罪者になりうる可能性を持っているのです。あなたの呟きが世界中に人に見られるからといって、それは決して神のお告げなんかではないのです。ネタバレ有り冒頭で書いた真波司のセリフそのままです。あなたは何様のつもりですか?何様でもありません。CyberRebeatは、そんなネット社会の怖さというものを教える為に作られたのだと思っております。

 そしてCyberRebeatはネット社会の怖さだけを伝える作品ではありませんでした。ネットが当たり前になっても変わらないもの、人と人との繋がりと言いますが絆というものについても丁寧に触れていました。春原舞が憧れていた姉と先輩、彼らは忽然と姿を消してしまいました。ですが彼女は諦めませんでした。苦手なタイピングを覚えて姉には勝てなくても自力で二人を探す決意を固めて足掻き続けました。一度はKARMAによって自分を失いかけましたが、最愛の友人である小白川葵に救われました。彼女は再び立ち上がる事が出来たのです。それでも強大な敵。二度目のKARMAによって流石にもうダメと思いましたが、ギリギリのところで間に合ったのです。彼女は願いを叶えられたのですね。そしてそれは彼女の力だけではありませんでした。小白川葵を始め、LittleGardenのみんなの信頼関係があってこそ達成できたのです。気持ちが良いですよね。素直に嬉しくなります。この信頼関係はネットの有る無しなんて関係ありませんね。大切なのは自分の気持ちを曝け出せるということ。それは弱みを見せる事ですが、弱みを見せてもいいと思える人がいるって素敵だと思います。和泉香奈が作り出す優しい世界、その中にネットの知識は全くありませんでした。それでも誰もが彼女のことを慕いました。きっと春原舞と和泉香奈はネットの有る無しの対比ですね。どちらも大切なのです。相手を思いやる気持ちは、ネットの外でも中でも共通ですね。

 長くなってしまいましたのでそろそろ締めようと思います。専門的な知識に裏打ちされたネット世界のシナリオは圧倒的に人を引き寄せる力があり、作品の強力な個性となりました。そんな中で生き生きと動き続ける登場人物たちも同時に個性豊かで、誰ひとり欠けてもEDにたどり着くことが出来ませんでした。そして何よりも解き明かしては現れより深まっていく伏線の数々、それは時間を遡り視点を変えて語られ終盤へと収束していきました。特に前半の清新出版内部での「Goodbye」のセリフや、後半でLittleGardenに全員集合した時は正直鳥肌が立ちました。物語の加速は留まる事を知らず、気が付けば一気に最後までプレイしてました。想定科学の世界でありながら現実のネット社会の問題に訴えた今作、まさに現代のビジュアルノベルと呼べるものだと思いました。楽しかったです。ありがとうございました。


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