M.M クラウンワークス虚実概論 0章そして1章




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 8 - 75 2〜3 2018/4/18
作品ページ サークルページ



<PTSDに悩む主人公が、魔述による戦いの中で解決する世界観が魅力でした。>

 この「クラウンワークス虚実概論 0章そして1章」という作品は、同人サークルである「ClosedCircle」で制作されたビジュアルノベルです。ClosedCircleさんの作品をプレイしたのは今作が初めてでして、C93にて同人ゲームの島サークルを周っているときにたまたま手に取りました。一目見てセンスを感じるパッケージに惚れてしまい、全タイトルを購入しております。加えてタイトルから心理学や脳科学を題材としており、博識な様子も伺えましてそんな内容にも期待しております。私のお知り合いの方の中からは「難しい作品」という声も伺っておりますので、心してプレイ開始しました。

 この作品を語るうえで最も重要な位置づけにあるもの、それは「魔述」にあると思っております。表向きに扱っているのは心的外傷後ストレス障害や自我同一性の喪失といった心理学や脳科学といったものです。ですが、それらの治療の為に用いるのが魔述なのです。主人公は、カウンセラーとの対話を通して自分と向き合い、その先に待っている神や魔述師と対峙する事によって自分の課題を克服していきます。非常に独特の世界観であり、それが故に固有名詞の多さや文化感の理解に多くの時間を費やす事になります。非常に難解であり難しい言い回しも多くありますが、それだけ世界観に拘っているという事でありそれをプレイ開始して直ぐにプレイヤーに伝わると思います。

 1章で扱っているものはPTSDです。主人公である久世正宗はカウンセラーとの対話を行っておりました。カウンセラーが言うには、久世正宗は人を殺したそうです。ですが久世正宗にそんな記憶はありません。果たしてどちらの言い分が正しいのでしょうか。久世正宗は自身の記憶の奥底に潜っていきます。久世正宗は冒険心を恐れております。誰かの指示に従い、決して目立とうとはしないのです。それこそ病的なまでの傍観姿勢こそが彼のPTSDとしての症状です。ですが、それでも目の前で魔述師と神の殺し合いは始まってしまいました。果たして久世正宗の存在意義はあるのでしょうか。どこで彼が手を出せるのでしょうか。それが分かったとき、それがPTSDを克服できる時なのかも知れません。

 この作品の魅力は作品全体で作り上げる雰囲気作りです。選択肢を選ぶ効果音やメニュー画面を開く効果音は全て透明感溢れるもので、高貴な雰囲気を感じさせます。BGMはフリー素材を多く活用しておりますが、これも効果音と同様に透明感があります。またクラシックも多用しており作品の雰囲気にマッチしております。他にも魔述を使ったバトルの結果流れる血の様子や非現実的な描写などもふんだんに盛り込んでおり、現実でありながら夢の中にいるかのような雰囲気を作っております。ただ、システム面についてはやや不安定な部分がありました。事前にパッチを充てる事は前提ですが、それを踏まえてもメニュー画面が開かない、不自然な改行が生じる、バックログが表示されないなどがありました。頻度は稀ですので気になる程ではありませんでしたが、固有名詞が多いテキストという事もあり何度も読み返す事を考えれば極力なくして欲しい部分ですね。

 プレイ時間は私で2時間40分掛かりました。この作品には選択肢が豊富にあります。しかも割と簡単にバッドエンドに行ってしまいます。ですが、この作品においてバッドエンドにたどり着く事もまたトゥルーエンドにたどり着くための必要な要素です。とりあえず気の向くまま選択し、その後に繰り返しプレイして頂ければと思います。公式HPの方にヒントがありますので是非参照して下さい。加えて、キーになる選択肢を選びますと「独特の効果音」が鳴りますのでそれも目安ですね。是非主人公のPTSDを解消するべく、プレイヤーの皆さんの力を貸してやって下さい。楽しい作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<何事も失敗を経験しなければその塩梅が分からない。そしてその先に相手の声を聴く余裕が出来るのだと思いました。>

 最後までプレイして、「クラウン・ワークスとはこれです」と具体的に明言はしていなかったと思います。だからこそ、1人1人がクラウン・ワークスとは何かという事を考えなければいけないですね。作中ではクラウン・ワークス=至高の名前と言っておりましたが。これは意味を説明している訳ではありません。大事なのは、その至高の名前に自信を持つ事なのかなと思いました。

 PTSDを抱え、いざという場面で矢面に立てない久世正宗。その為どのタイミングで矢面に立てばいいかのタイミングが掴めず、物語中では何度もその命を散らしておりました。ですが、この何度も失敗するという経験が後にPTSDを克服する事に繋がりました。この作品、トゥルーエンドに到達するために何度か死ぬ事が求められます。ですが、それはゲーム上の仕様という意味だけではなく実際にPTSDを克服するために必要不可欠なプロセスだったのですね。このタイミングで飛び出せば死んでしまう、このタイミングで飛び出せば失敗してしまう、これは経験しなければ決して身につくものではありません。PTSDだからといって避けていては、ずっとそのままであるしかないのです。

 久世正宗は最後の選択肢で見事にジンクス(スフィンクス)を破りました。そしてサイファーは諱名の鎖に絡め捕られました。この先がどうなるのかは、2章以降にお預けですね。いずれにしても踏み出すべき時に踏み出せない久世正宗はもういません。いや、流石にこの一回の成功体験でPTSDを克服したとは思いませんが、今までのような強迫観念は無いと思います。次に解決しなければいけない課題は何でしょうか。また魔述を絡めた複雑なシナリオが待っていると思いますが、何とかその本質を見極めて読み進めていければと思っております。

 個人的に印象的だったのはサイファーが持っていた二刀剣でした。1つが直接物理的に傷つけるもので、もう1つは理論武装でぶつけるものでした。これって、どちらがどちらの剣なのか分からない人にとって見ればどちらも危険で恐怖な存在ですね。それこそ、相手と関わる事を避けて全てが自分にとって危険な物だと思い込んでしまっては、どれだけ理論的に話をしようと思っても聞く耳を持たないというものです。これが二刀剣の本質なのかなと思っております。久世正宗は見事にその殻を破る事が出来ました。本当の暴力と、相手を思っての理論武装の違いに耳を傾ける事が出来たんですね。これは人生においても大切な事です。叱るという事は虐めるという事ではありません。愛情があって、相手に変わって欲しい成長して欲しいと思うから叱るのです。それが大丈夫な方の剣です。それに気付けは、死ぬなんて事は決してありませんね。

 さて、結果として誰も死んでいない事が分かりました。ですが、カウンセラーは確かに久世正宗以外の全員が死んだと言っております。ましてやそれは久世正宗が殺したと言っております。この事そのものが解決した訳ではありません。魔述を使った戦いは、まだまだ始まったばかりです。これからどのようなシナリオが待っているのか、怖いですが楽しみにしようと思います。ありがとうございました。


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