M.M CROSS†CHANNEL


<作者からのメッセージの伝え方>

 今現在も多大なる人気を集めているこの「CROSS†CHANNEL」と言うゲーム、私も常々やりたいとは思っていたのですが、並々ならぬ事情でプレイできませんでした。そして、いよいよこの大作をやる覚悟を決めてから3日後、まるで台風が過ぎ去った後の空のように私の心は空っぽになってしまいました。

 ホームページでも紹介していますように、このゲームは一度バラバラになった放送部のメンバーが、もう一度アンテナから電波を飛ばすために今一度結束しようという内容です。実際プレイしてみて、確かにこの概要に沿ったシナリオが展開されました。しかし、この作品が伝えたかったメッセージはそう単純な物ではありませんでした。簡単に言うと、作者である「田中ロミオ」氏の持つ人と人との触れ合いに対する答えでした。人と人との触れ合い方なんて、正直何年生きても正しい答えにはたどり着けないと思います。と言うよりも、正しい答えなんて無いと思っています。それでも、この作品から提示された答えは、私の心に深く突き刺さる物でした。

 そしてこの作品において最も評価出来るところは、作者の持つテーマのゲーム中でのプレイヤーに対する伝え方でした。シナリオの序盤や中盤ではテーマは見えてきません。後半に入ってようやく何が言いたかったのか分かってきますが、それの重みを感じる事はできません。最後の最後になってようやく作者の伝えたかったテーマがハッキリと分かるのです。そして、このテーマが分かった後にもう一度シナリオを振り返ると、セリフの一つ一つやキャラクターの心情、さらには「CROSS†CHANNEL」という作品タイトルに対してまで「ああ、なるほどな。」と感心してしまうことになると思います。

 私の場合は、このテーマをこういったシナリオで表現したという事に少なからずショックを受けてしまいましたので。上記のように「ああ、なるほどな。」と感心するには時間が掛かりました。それでも、最終的にはやはりシナリオの巧みさが見せる感動だけが心に残った感じです。今までやったどんなギャルゲーとも違う感動がここにはありました。

 ちなみに、絵や音楽などの要素も作品の雰囲気を壊さない透明な印象でとても良いです。ただし、システムには多少不満はありました。一番不満に思った事は、ログをほとんど読み返せないという事です。少しなら読み返せるのですが、結構前にやって気になったなぁと思っても、その時点のログは確実に消えていると思ってください。あくまで読み飛ばしてしまった様のログです。そして、オフィシャルホームページで公開されている修正パッチだけは当ててください。ゲームの性質上、エンディングにたどりつけなくなります。

 色々と言いましたが、この「CROSS†CHANNEL」と言うゲームは必ず何かしらの思いを心の中に残す事になることは間違いありません。この世に生を受けたのなら、死ぬ前に必ずやりましょう。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<「†」と「X」>

 この「CROSS†CHANNEL」のテーマを完結に言うと、「†」より「X」に尽きると思います。

 「†」は本来は「ダガー」と呼ぶ記号です。なので私はこの「†」の解釈を、ナイフを意味する「ダガー」にちなんで「人と人とのふれあいは本質的に傷つけあう」としました。事実、群青にいる人たちはそれぞれ一つの側面に対して絶対的な欠落を持っています。それは、人間不信や自己愛、人間無関心など、どれもこれもが人間関係を作る上で致命的に損な部分です。そのため、周りの人と触れ合おうといくら外見を繕ってもいざ心が交差するとボロが出て、結果としてバラバラになってしまうのです。物語の始まりも、そういった状況で始まりました。

 なので、人間関係を作るには「†」よりも「X」なのです。そしてこの「X」が主張している事は、物語の最後でも言ってた通り「人と人は重なり合う事はできない。それでもなお人は交差を求めようとする」という事です。一見すると、「†」と何が違うのかが分からないかもしれませんが、重要な事は「人は人それぞれであるという事をまず認識すること」にあると思います。つまり、人と付き合うという事は自分の価値観を主張する事でも人に頼りっぱなしになるという事でもなく、理解する事だという事です。群青にいる人々は皆人付き合いをする上で何かしらの欠点を持っています。ここで彼らが「それを理解して自分とは違う人間なんだ」という認識を持てば、もしかしたら他世界へ飛ばされなく楽しい放送部を続ける事が出来たかもしれません。

 「CROSS†CHANNEL」をプレイした人の何人かは、彼らの気持ちが自分に当てはまると思うと思います。それもそのはず、彼らは人間が持っている欲求が過度に出てしまっただけなのだからです。だからこそ私達の周りの人間関係でも、群青のように二度と修復できない様な人間関係になってしまった人がいると思います。それはきっと、その人との触れ合いが「†」だったからです。大切な事は「†」ではなく「X」、このゲームの作者が伝えたかったメッセージはこれに尽きると思います。
 私がそうなのですが、最後の太一の決断にショックを受けた方は多いかと思います。しかし、おそらく太一は自分は「†」しか出来ないと悟ったのではないのでしょうか。そう思えばあの結末は仕方なかったと思います。しかし心配はありません、彼が流し続ける「CROSS†CHANNEL」と言う名のラジオは、皆のいる現実世界と「X」しているのですから。


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