M.M Happy Coredump




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 4 4 78 3〜4 2016/3/10
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<物語の中心にいる渡会孝徳の動作一つ一つから是非Coredumpを抜き出して解析して欲しいですね。>

 この「Happy Coredump」は同人サークルである「Revinたち」で制作されたビジュアルノベルです。これまで私はRevinたちさんの事を存じてなかったのですが、私のHPの57,000のキリ番を踏まれた方からの推薦で知ることが出来ました。今回推薦頂いたHappy Coredumpですが、Revinたちさんから公開されたのが2011/1/7という事でもう5年もの月日が流れております。それでもこうして様々な方から支持されており、それだけの魅力があるという事なのだろうと感じております。現在はノベルスフィアの方で無料公開されており、誰でも今すぐプレイする事が出来ます。気が付けば非常に独特の感性を持った個性的なシナリオに感服しておりました。

 主人公である渡会孝徳はどこにでもいる普通の高校2年生です。人と接することが苦手な性格であり、それが故に他人からの攻撃に備えて常にあらゆる理屈を振りかざして自己防衛を図ろうとします。ですがそんな性格は高校2年生であれば多かれ少なかれ誰でも持ち合わせているものであり、渡会孝徳が特別周りと比べて変わっているという事はありません。そんな渡会孝徳の周囲で、常識的には考えられないような不条理な出来事が立て続けに起こります。そしてこの事が渡会孝徳という人間の本当の特殊性を浮き彫りにしていくのです。果たして渡会孝徳の周りに起きる不条理な出来事とは何か、そして渡会孝徳という人間の特殊性とは何かを焦点に読んでみて欲しいですね。

 タイトルにあるCoredumpという言葉はPC用語の1つであり、ウィキペディアによりますと「ある時点の使用中のメモリの内容をそのまま記録したものであり、一般に異常終了したプログラムのデバッグに使われる。」とあります。つまりPC内で何かエラーが起こったときに参照するファイルがCoredumpであり、普通に活動していれば決して見ようとしないファイルでもあります。察しの良い方は何となく想像付いていると思いますが、ここでのCoredumpとはもちろん渡会孝徳もしくは渡会孝徳の中にある何かを指しております。周りの人と比較して明らかに特殊でありエラーである渡会孝徳。そして実は本人もその事を半分自覚しておりながら自分の中で湧き上がる疑問、それもまたCoredumpです。「幸せなCoredump」とはどういう意味なのでしょうか?Coredumpを排除してその他大勢の人が幸せになるという意味なのでしょうか?物語の中心に常に渡会孝徳が存在します。彼の動作一つ一つから是非Coredumpを抜き出して解析して欲しいですね。

 他にもこの作品には渡会孝徳以外にも個性的なキャラクターが登場します。全員が割とアクの強い性格をしており、とても印象に残ります。そしてそんな彼らにも不条理な出来事がやってくるのです。テキストを読み進めていく中で気が付けば場面がガラリと変わっており、今自分はどこにいるのか、誰の視点で物事を見ているのかを見落としがちです。まるでそんなテキストそのものが不条理に思えるほど。それでも辛抱強く状況を分析して読み進めた先にあるのは更なる不条理なのか、それとも不条理から抜け出した世界なのか。プレイヤーによってかなり評価の別れるシナリオかも知れませんね。分からない人には本当に分からないと思いますし、分かっているつもりでもどこかこじ付けで納得させないと先に進めない人もいると思います。この作品については特に多くの感想を読んでみたいですね。皆さん一人一人の不条理の受け止め方を教えてください。

 プレイ時間は私で3時間40分程度掛かりました。この作品は全部で4章構成になっており、それぞれ1時間程度で読み終える事ができます。ボリュームとしては決して大きくはないのですが、なにぶん不条理で難解ですのでプレイ時間以上にプレイしている印象を覚えると思います。メモをとってもそのメモすら全く生かせないかも知れません。この謎めいたテキストこそがきっとRevinたちさんの魅力なのですね。最後まで不条理と書き続けましたが、そんな不条理が溜まりに溜まったCoredumpを解読できるのはプレイヤーしかいないのです。是非独特の世界観に没頭してみてください。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<どんなに不条理な出来事に見舞われても、それでも社会との関係を切り離す事は出来ない。>

 最後までプレイして、何ともまあ後味の悪いと言いますか誰も幸せになれないエンディングだなと思いました。日本は第三国からの攻撃に襲われ、渡会孝徳以外の知り合いの殆ども死んでしまいました。それでも悪いのは渡会孝徳と世の中は思うのです。ですが渡会孝徳が可哀想とは微塵にも思わなかったですね。だって、渡会孝徳は始めから社会と関わる事を放棄していたのですから。

 私、この作品をプレイして何が一番気になったかと聞かれれば間違いなく渡会孝徳と答えますね。冒頭渡会孝徳は下校中に何者かに連れ去られ数々の謎に満ちたトラップのある場所に閉じ込められます。それでも嫌な顔せず時間こそ掛かりましたが淡々と解き明かしていくのです。その後も自分が死んでいたことになったと知っても、両親が自分を捨てて海外に引っ越したと聞いてもまるで他人事。何故こいつはここまで他人事でいれるのか不思議で仕方がありませんでした。ですがそれも最後の最後で判明しました。渡会孝徳は、始めから社会に対して関わろうとしていなかったのです。

 途中渡会孝徳は殺人の容疑で警察に事情聴取を受け冤罪を着せられます。普通であればもっと自分の無罪を主張し不条理と戦おうとするはずです。ですがそれをしませんでした。それどころか面倒くさいからもう自分が犯人でいいよと投げ出す始末。別に渡会孝徳は自分の意志で犯人だと自白したわけではないのです、ただ面倒くさいから警察が望む回答をしただけなのです。諦めとか絶望とか、そういった人間的な感情は一つも混じってません。ただ事務的に、何となくその場の雰囲気に合わせて言葉を並べているだけです。これが不気味と言わずに何と言いましょうか。渡会孝徳にとって、どんな不条理も意味を持たなかったんです。これは本当に恐ろしい事。なぜなら渡会孝徳にとって社会というコミュニティは不必要であるという事なのですから。

 ですがそんな渡会孝徳にとって誤算になる出来事が起こりました。それは幼馴染であり自分とはまるで違う環境で育った五条院凛花からの告白です。人の好きという気持ちはダイレクトに相手に届くコミュニティの方法でもあります。渡会孝徳にとってこの言葉は思いのほか心に響き、簡単に自分を失ってしまいました。そして如何に自分が社会にとって異質であるか、作中の言葉を借りればガンであるかを自覚するのです。そして自分を失った渡会孝徳はその切っ掛けを作った五条院凛花を殺してしまい、ついに社会との関係を全て断ち切ることに成功しました。そしてその後に渡会孝徳がとった行動は、何と社会に関わろうとする行動だったのです。

 仮初のアイドルに夢中になる渡会孝徳。傍から見て何と滑稽な事でしょう。ですがこの時既に渡会孝徳は知ってしまったんですね。自分が社会に認められる事の楽しさを。自分がイエーイを言えば相手もイエーイと言ってくれるのです。これはとても嬉しい事。やっと渡会孝徳は人間になる事が出来たのです。自分の中のCoredumpの解析がやっと終わったのです。ですがその為に払った代償はとても大きなものでした。世界の終わり、失った家族と知り合い。これから渡会孝徳はどうやって社会と関わっていくのでしょう。間違いなくBAD ENDにしか見えない終わり方。たった1つの救いである渡会孝徳の社会性の獲得は希望の始まりであり絶望の始まり。もっと早く社会と関わる事の大切さを知っていれば、こんな事にはならなかったのかも知れませんね。どんなに不条理な出来事に見舞われても、それでも社会との関係を切り離す事は出来ない。この作品は渡会孝徳という視点を通してそんな事を言いたかったのかも知れませんね。ありがとうございました。


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