M.M コンフリクトガール




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 - 78 8〜9 2021/5/29
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<非常に豊富で表情豊かな立ち絵に導かれながら、サイコでサスペンスな百合を楽しんでみて下さい。>

 この「コンフリクトガール」は、同人ゲームサークルである「ミラーイメージ」で制作されたビジュアルノベルです。プレイした切っ掛けですが、実はお知り合いの方から誕生日プレゼントとして頂いた事です。毎年ありがたい事に、紹介頂くだけではなくこのようにプレゼントまで頂けるなんて本当に嬉しい限りです。何よりも、信頼しているお知り合いの方がプレゼントしてまでプレイして欲しい作品であれば面白くない筈がありません。調べてみましたら、この作品は百合サイコサスペンスアドベンチャーとの事です。百合でありサイコでありサスペンスですからね、可愛らしい登場人物の表情からは想像出来ないシナリオが待っていそうで期待が高まってしまいます。まずは登場人物のキャラクターを把握するところから始めようと思い、プレイし始めました。

 主人公である相川のぞみは、とても元気な高校一年生です。背は小さいですがとても明るい性格で、彼女の周りにはいつも友達がいます。しかし勉強はあまり得意ではなく、これから控えている期末テストは小さな悩みでした。そんなのぞみですが、家の隣にはクラスメイトが住んでおりました。名前は篠塚皐月、のぞみとは対照的に背が高くお淑やかな物腰の高校一年生です。毎朝誰よりも早く学校に行き、誰かに頼まれている訳でもなく掃除などをしております。そんな品行方正な皐月は自分にとっては高根の花、そんな風に遠い所から見続けておりました。ある日、期末テストに向けての悩みをクラスメイトである高遠文恵に相談しました。文恵にはいつも助けて貰っているのですが、最近板垣勤という彼氏が出来た事もあり頼み辛いと感じておりました。そこで出たアイディアが、皐月にお願いする事です。ひょんな切っ掛けで2人の距離が縮まり、そしてお互いの思いもよらない心の在り方を知るようになるのです。

 冒頭書きましたが、この作品は百合サイコサスペンスアドベンチャーです。当たり前の日常の様な描写で始まる本作ですが、残念ながらそのままの雰囲気で終わる事はありません。どこかでサイコでサスペンスな描写が待っております。ですが、その場面は突然現れるのかそれともジワリジワリと現れるのかは分かりません。何れにしても、人と人が触れ合っていく中でいつの間にかその渦中に入っている事と思います。この作品は、とにかく登場人物のキャラクターをしっかりと丁寧に把握する事が醍醐味だと思います。始めから全員を疑って読む必要はありませんが、ふと感じた違和感を大切にして記憶しながら読むのが良いですね。些細な違和感をいつまでも放っておくと、とんでもない事になるかも知れませんよ。最後には、幸せな結末になる事を祈っております。

 この作品の最大の魅力は、立ち絵の豊富さとバリエーションの多さだと思っております。ミラーイメージさんのBOOTHに行くと分かりますが、元々様々な立ち絵素材集を頒布しております。その実績もあるのか、とにかく立ち絵の種類が豊富なのです。表情差分が多いのは勿論、ポージングも真正面を向いている基本のものから、屈んでいるもの・横を向いているもの・後ろを向いているものととにかく様々です。これだけで十分楽しませてくれます。後は、単純に登場人物の塗りがアニメの様な発色で鮮やかです。その点もありより記号的に登場人物を理解する事が出来プレイヤーの心を掴んでくれます。イベントスチルも豊富にあり、そのどれもが登場人物を魅力的に描いております。是非登場人物の心情を、テキストだけではなく表情豊かな立ち絵から想像してみて下さい。

 プレイ時間は私で8時間10分くらいでした。この作品の特徴として、選択肢が比較的多い点が挙げられます。そして、エンディングの数は全部で11です。つまり、分岐を丁寧に検証しないと全てのエンディングにたどり着けないという事です。実際、私もトゥルーエンドにたどり着くまで約7時間掛かりました。トゥルーエンドにたどり着く間何度もトライアンドエラーを繰り返し、この段階で既に9つのエンディングを見ました。それから残り1時間少しで残りのエンディングを確認し全11エンディングとなります。シナリオの大筋はトゥルーエンドで把握する事が出来ますので無理に全エンディングを見る必要は無いかも知れませんが、エンディングリストが用意されているとどうしても全部埋めたくなってしまいますね。物によってはフラグがシビアなものもありますので、頑張れる人は頑張ってみて下さい。そして、サイコでサスペンスな百合を堪能してみて下さい。楽しかったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<どんな愛の形であれそれが真実。それが、誰かに理解されたらこれ程幸せな事はありませんね。>

 私この作品で一番ゾクゾク来たのは、自分を殺そうとした皐月に対して「……皐月ちゃんと、一緒にいたい……」と言ったのぞみに対する、怯えたような表情を見せた皐月でした。確かに皐月はサイコパスです。母親の影響もありますが、基本的に自分の感性が普通の人とズレている事を自覚しておりその上で表面上良い人を演じながらのぞみのような小さな女の子の死体を見るのが好きなのですから。ですけど、そんな皐月を一歩上回ったのがのぞみでした。そんな存在を目の当たりにして、怯えを見せた皐月に興奮してしまいましたね。本当、愛って人の数だけあるんだなと思いました。

 よく社会で生きていると、素直になれとか自分のやりたい事をやれみたいな事を言われます。取り繕っても何も意味がない、本音をぶつけないと分かり合えない、そんな美しい言葉が自己啓発本などに乗って流れているのです。では、その自分のやりたい事や気持ちが余りにも世の中の常識をかけ離れていたらどうするんでしょうね?それこそ皐月の様に素直な気持ちが人を傷つける事だったら、もうどうあがいても仮面を被るしかありえないじゃないですか。私、この素直になれとか自分を曝け出せとかって本当無責任だと思うんです。世の中にいる人の全員が素直に生きたら、きっと世界は崩壊してしまいますよ。もしあなたの親しい人が「君が泣くと嬉しい、苦しむと気持ちいい」と言ったらどう思いますか?これまでと変わらない距離感で接する事が出来ますか?それが出来ないと分かっているから、仮面を被るのです。

 ですけど、そんな仮面を被ったサイコパスが仮面を取ってもなお相手に対して傍にいる事を求める存在がいました。それがのぞみです。のぞみは、決してサイコパスなどではありません。日々の生活でも特別仮面を被っている訳ではありません。ですがのぞみには他の人ほど持ち合わせていない乾きがありました。それは寂しさや愛情というものを満たす事が出来ないという事です。のぞみはかつて自分の母親を失っております。そして、その責任は自分にあると思っております。その為必要以上に父親に甘えず、出来るだけ明るく振る舞って周囲の人に心配させないよう気を使っておりました。ですが、元々のぞみは寂しがり屋であり愛情に飢えておりました。そのくせ、どれだけその愛情を注いでも直ぐに乾いてしまい無限に求めてしまいます。のぞみはサイコパスではありませんが、この無限に求める欲求に気付いていませんでした。無意識な抑え込みが、皐月という存在によって溶かされたのです。

 そして、それは皐月も同じでした。母親の事を憎んでいると思っていた皐月、ですがそれは嘘である事が分かってしまいました。自分のサイコパスっぷりを全面に出し圧倒的な得体の知れなさでのぞみを拒絶したはずでした。ですが、それでものぞみは皐月を求めたのです。そんなのぞみに、皐月が狼狽えてしまいました。変だとすら思いました。自分のサイコパスっぷりと棚に上げてですね。そして事件から何日も経過して再会した2人、のぞみは嬉しさ・皐月は得体の知れなさを感じていました。突き放そうとする皐月とそれでも追いすがるのぞみ、そこで皐月は自分の内面について改めて向き合うことが出来ました。本当は母親の事が好きでした。誰かを好きになる事が、皐月には出来るのです。そして、それを教えてくれたのぞみの事を本当の意味で好きになる事が出来ました。やっと、2人の気持ちが向き合えたんですね。

 皐月の様な心根の持ち主を好きになる事は変でしょうか。のぞみの様に真っ直ぐに他人の愛情を求める事は変でしょうか。思うに、世の中の愛情に変とか変じゃないとか普通とかそういったものは無いと思います。どの愛も真実でありその人らしさだと思います。後は、その愛の気持ちを相手にぶつけた時に受け入れてもらえるかでしょうね。恋人の形に正解不正解などありません。人の数だけ存在します。それを、のぞみと皐月が教えてくれました。やや共依存っぽい印象ですのでこのままめでたしめでたしかは分かりませんが、少なくともここまで本音を曝け出し合ったのはお互い初めてだったと思います。後は、恋人として同じ時間を過ごしもっともっと相手を理解する事ですね。Conflictには、争い・対立・葛藤などの意味があります。ずっと自分の気持ちや相手の気持ちに葛藤し対立してきた少女たちに、願わくばそのまま幸せな人生が続く事を祈っております。ありがとうございました。


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