M.M カクテルマジック




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 7 - 70 4〜5 2023/7/17
作品ページ(なし) サークルページ
パッケージ版

DL版



<サークルさんはお酒が好きなんだなという事が伝わる、丁寧な作り込みの作品です。>

 この「カクテルマジック」という作品は、同人サークルである「セイランソフト」で制作されたビジュアルノベルです。セイランソフトさんの処女作であり、C101にてfull Versionを手に取らせて頂きました。C101で手に取る前から、セイランソフトさんの事は存じておりました。full Versionが発表される前から、各ヒロインの個別ルートをパッケージ化してコミックマーケットで頒布していたからです。是非最後まで完成させてほしいと思っており、今回full Versionを手に取る事が出来て良かったと思っております。カクテルマジックというタイトルは語呂が良く、またロゴのデザインもシックなイメージが表現されていて良いと思いました。何よりも、ヒロインが可愛いですね。Twitterアカウントでも採用しているピンク髪の女の子の笑顔に惹かれます。一見お酒に縁の無さそうな彼女達が、どのようにお酒に関わっていくのかを楽しみにプレイし始めました。

 舞台は現代の日本です。ここには「禁酒法」が施行されており、国民はお酒を飲む事が出来ません。ですが世の中なにごとも表と裏があり、非合法ですがお酒を飲む方法はあるものです。主人公であるユウキはとある切っ掛けでお酒を取り扱っている酒場に迷い込んでしまいます。そこは現代のマフィアが運営している非合法な場所であり、表の世界で栄誉や名声を得ている著名人がコッソリとお酒を飲みに来ておりました。意図しないとはいえ非合法な事実を知ってしまった主人公は、酒場を経営しているボスの指示のもと監視を付けられてしまいます。学校の教師をしている主人公の隣の机に、気が付けばバーテンダーをしているミサトが同じ教師として赴任しておりました。また酒場にはマリーというまだ未成年にも見える女の子が接客をしており、とある理由で外に出れない事から家庭教師を引き受けるのです。ふとした切っ掛けで迷い込んだ酒場から、3人の女の子と3つの物語が幕を開けるのです。

 皆さんはお酒は好きでしょうか?私個人としては、積極的に飲みはしませんが知り合いや親しい人が飲むのであれば付き合う程度です。お酒は、お酒そのものの味や喉越しが好きで飲んでいる人だけではなく、お酒を中心とした空間を楽しむといった触れ方もあると思っております。会社の仕事終わりに職場の同僚とちょっと話したいから居酒屋に行く、真夏の暑い日にバーベキューをしながらビールを飲む、結婚式などの祝いの場でシャンパンで乾杯する、生活の様々なシーンでお酒は登場します。お酒が飲める事は決して必須ではありませんし、飲めない人がいるからといってそれが悪いわけでもありません。ただ、人や社会に迷惑を掛けなければそれで良いと思っております。この作品のタイトルは「カクテルマジック」です。お酒がもつ力は、見方によっては確かに魔法の様なものかもしれません。皆さんも、是非用法容量を間違えない程度にお酒と良い付き合いをして頂ければと思います。

 この作品では、そんなお酒に対する愛情を随所に見る事が出来ます。特に印象に残っているのは効果音です。作中カクテルを作るシーンがあるのですが、その時のシェイカーの音やグラスに注ぐ音に大変リアリティを感じました。何しろ、シェイクして注ぎ終わるまで先に進む事は出来ませんからね。お酒と同じく、テキストも急いで読むものではないという事を伝えているかのようです。また、ウォッカ・ジン・ウィスキー・スピリタスを始めとした様々なお酒が登場します。この辺りは流石のタイトル回収というところでしょうね。セイランソフトさんは大学生のサークルという事ですが、お酒と良い出会いがあったんだなと思わせます。お酒の部分以外で、基本的なシステム機能は揃っておりテキストを読む行為に不都合は感じません。またBGMや背景の多くにオリジナル素材を使用しており、同人ビジュアルノベルにおいてここまで自前で準備されているサークルはそうあるものではないと感心しました。

 プレイ時間は私で4時間30分でした。この作品は3人のヒロインを攻略するもので、1人当たり1時間30分といった感じです。選択肢はありますが、基本的にヒロインへの分岐の為の選択肢という事で難易度は低いです。3人のヒロインは、見た目の通り全く違う性格をしております。また性格のみならず立場も違いますので、それぞれがそれぞれの悩みを抱えております。これに主人公がどう関係していくのか、そこを掴んで頂ければと思います。そして、そんな主人公とヒロインの関わりの中にどのようにお酒が関係していくかも同時に見て頂ければと思います。現在DLsiteやBOOTHで購入する事が出来ます。また個別ルートでも販売しておりますので、気になったヒロインをプレイしてみて感触を見るのも良いかも知れません。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<主人公ユウキの行動力が光り、そのユウキに感化され揺れ動く登場人物の姿が印象的でした。>

 ネタバレ有りのレビューを始める前に、これだけは言っておきたいと思います。禁酒法が施行されている世界なのに、背景に居酒屋とか酒屋の文字があるのはマズいですよ!折角お酒に対して丁寧に作っているのに、この2枚の背景絵だけでだいぶガクッと来てしまいました。気にしなければそれまでなのですが、詰めの甘さが残念でした。

 さて気を取り直して、最後までプレイしてとにかく主人公ユウキの行動力といいますか決断力が全ての作品だったなと思いました。ミサトルートでは、禁酒法を無くする為に教師を辞職し酒場で働く道を選びました。マリールートでは、マリーに人並みの生活を送らせるために自宅に引き取りました。ボスルートでは、ファミリーになる為に酒屋の一員としてのスキル習得に没頭しました。とにかくこれをしようと思ったらその実現の為に真っすぐ突き進む、これは人生を生きる上である意味一番大切なスキルだと思っております。大抵の人は、頭の中に構想があってもそれを実行するために腰を上げられないものです。何故なら、沢山の時間と労力を使いますし使ったからといっても必ず成果が出るとは限らないからです。というよりも、大抵は失敗します。だからこそ、失敗するか分からない事に対して突き進む人は立派だと常々思います。

 そして、ユウキにとって幸運だったのは周りの人が基本的に良い人ばかりだったことです。傍から見て、ユウキの行動は正直無謀と言えるものです。それでも、ミサトルートでは同じお客さんであるカーヴィとバクの絶妙なアシストがあって黒幕を引きずり出す事が出来ました。マリールートでは、いつも隣にいるジュンが見守っていてくれました。ボスルートでは、皆がユウキのお願いを聞き入れユウキの特訓に力を貸してくれました。つまるところ、ユウキ一人の力で出来る事には限りがあった訳です。ユウキの想いに共感してくれる人がいて、その人と協力したからこそ無謀とも思える事が達成できたのかなと思っております。ユウキは幸運でしたが、その幸運を引き寄せたのもユウキの力という事です。

 特にユウキの想いに振り回されたのは、敵のファミリーからスパイとして潜入していたウスキだったと思います。マリールートでは目的を達成して離れましたので別ですが、ミサトルートとボスルートでは何だかんだでユウキの真っすぐな思いに自分の存在意義を見失ってしまいました。本当にこの場を壊していいのか、自分は何故スパイをしているのか、そんな事を考えたのだろうと思います。結局のところ、最後の最後で非情になり切れなかった辺りウスキも血の拠った人間でした。そもそも、ウスキの助力無しにミサトルートでもボスルートでも目的を達成する事は出来ませんでしたからね。ウスキみたいに、自分が出来ない事を当たり前の様にやってしまうユウキに対して羨望と嫉妬の気持ちを持つ気持ちはよく分かります。後は、自分の気持ちに正直になる事ですね。ウスキもまた、ユウキに救われた一人かも知れません。

 セイランソフトさんの作品コンセプトは基本的にヒューマンドラマという事ですが、その名の通り登場人物の気持ちの揺れ動きが特徴の内容だったと思います。主人公ユウキを中心に、多くの人が自分の気持ちを見返してしまいましたからね。細かい世界設定や舞台背景などについてはまだまだ粗削りと感じましたが、伝えたい事が伝わる良い作品だったなと思っております。是非とも、これからもセイランソフトさんが描きたい人物を世の中に発信し続けて欲しいと思いました。ありがとうございました。

 ところで、いつかどこかでジュンルートやウスキルート作りませんか???3人のヒロインよりもよっぽどヒロインしていると思いますよ!!!


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