M.M Clover Heart's




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 9 8 75 15〜25 2007/11/19
作品ページ(R-18注意) ブランドページ(R-18注意)



<時間を掛けてじっくりと進めて頂きたい、心温まる物語>

 この「Clover heart's」というゲームは、私の大好きな「月陽炎」のスタッフが「すたじおみりす」から独立する形で立ち上げたブランド「ALcot」での処女作です。月陽炎好きの私としては是非是非やっておきたかった一作だったのですが、相変わらずの温かいシナリオ展開に心いやされる感覚を覚えました。

 オフィシャルHPをご覧になられればよく分かりますが、このゲームは基本的に双子である2人の主人公と同じく双子である2人のメインヒロインによるシナリオを主軸として展開されていきます。なので、基本的に攻略人数は2人であると思って頂いて結構だと思います(サブヒロインもいるのですが、これはメインシナリオのちょっとした派生という形で出ますので、時間的に重きを置いたものではありません)。そしてこのゲームの特徴として、この2組の双子によるシナリオ展開を「時間をかけてゆっくりと進めて頂きたい」とスタッフが言いたいような演出にあると思います。

 正直言って、ほとんど2本のシナリオしかないと言ってもいいゲームなだけに1本当りのシナリオの長さは相当なものです。そしてその相当長いシナリオですが、長いからと言って始めから終りまで山あり谷ありといった起伏のあるシナリオという訳ではありません。なので、人によっては、いや多くの人は「無駄に長く感じた」と思ってしまうでしょう。そして、この事は間違いなくスタッフも分かっていたのでしょう。だからこそ、このゲームの演出は実に素晴しいと思った訳です。

 で、その演出ですが、1本10時間以上かかるシナリオに対して途中適当な部分で幾つかの「区切り」を用意してくれます。そして、その「区切り」を起点にして「仕切り直し」という形でタイトルからシナリオを再開できます。言ってしまえば、これはプレイヤーが任意でセーブして途中から再開するという事を、シナリオに配慮したスタッフ側によるベストのタイミングで行っていると言い換えることもできます。そして、この区切りがあるからこそそれほど起伏のないシナリオを飽きないでプレイすることが出来る訳です。

 何よりも、この「Clover heart's」のシナリオは勢いで終わらせていいシナリオではありません。たとえ時間があっても、1日2〜3時間程進めてそのシナリオを思い返しつつ次回また2〜3時間進める…みたいなやり方が、この作品のテーマを一番理解できると思います。それ程までに、このゲームで表現しようとしている「幸せ」という物は、シナリオの起伏さに頼らない「日常生活」に重きを置いた心温まる物です。

 プレイヤーを途中で間延びさせない為の文章を書く事はもちろんライターの力量ですが、この作品はある意味真逆の事を行っているのかもしれません。何しろ、ライターが間延びするであろうと予測したうえで、このような演出を考えたのですから。そして、そういう作品が少ない最近のギャルゲー界において、この「Clover Heart's」はどこか新しい印象をもたらしてくれるだろうと思っています。何かマッタリしたシナリオのゲームがやりたい、時間が無くても進められるゲームがやりたい、などと思っている方、是非プレイしてみてください。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<本当の幸せは日常の中でのみ得られる>

 いつの間に「夷月」はあんなに素直になったのだろう。いつの間に「白兎」はあんなに強くなったのだろう。いつの間に、この4人は何の気兼ねも無しに接することができるようになったのだろう。それは間違いなく「莉織」と「玲亜」によるものなのです。ですが私がこのような疑問を持ったのは、このように彼らが「心変わり」する切欠を「明示的」に表現しなかったからです。

 このゲーム、シナリオの大部分は本当に「日常生活」で描かれていて途中途中にそれなりのイベント(サブヒロインとの対立や卒業など)が配置されている感じです。そして、このシナリオのテーマである「家族の持つ幸せ」という物を表現する時にこの「日常生活」の部分がいくらかカットされていたらどうなっていたでしょう。確かにそれでもいわゆる鍵となるイベントを通過すればシナリオは進むでしょう。ですがこの作品、その鍵となるイベントを通過しただけではこの「家族の持つ幸せ」というテーマを十二分に理解することは出来ないだろうと思います。

 このゲームの最大の魅力は何と言っても「莉織」と「玲亜」の積極的なアプローチです。そしてこの事が後に「夷月」と「白兎」の心を変えていくわけですが、このアプローチ、思い返すとそんなに要らなかったんじゃないかと思うほど「クドく」繰り返されています。ですが、そんな一見無駄とも思えるほどのアプローチだからこそ、「夷月」と「白兎」の心も動いたのではないでしょうか。

 シナリオを思い返すときは「○○な行動をしたから××の様になった」と、ただ事実としての変化をまとめがちになると思いますが、そういう視点で見ればこの「Clover Heart's」のシナリオはもの凄く短いものとして終わってしまいます。ですが、現実の世界の中で人の心が動く(信頼される)のは、そういった単発の行動のみでは決して叶わず、何度も何度も繰り返して行われた行動の中でのみ可能であると思います。だからこそ、この「Clover Heart's」はあえて起伏のない単調な日常生活の部分を大きく描いたのではないかと思います。

 だから、この「家族の持つ幸せ」というテーマを描くために、人の心が動く「起点」を「明示的」にする必要製は無いのです。当り前の日常の中で、いつの間にか変わっていったという流れの方が自然です。そういった意味で、この日常を「意味のある物」として捉えるか「意味のないもの」として捉えるかでこのゲームの評価は二分すると思います。

 私がこのゲームを思い返すときに蘇る場面は、何度も「夷月」に説得しながらも何度もそれを拒否される「莉織」の姿や、委員会の為に話す機会が減った「玲亜」が何度も「白兎」にアプローチする姿など、本当に繰り返される日常の風景でした。それ程までにこの作品において「日常」は意味のあるものだと思います。そして、こんな風に日常に重きを置くゲームが今後も増えていったらいいなと思いました。


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