M.M 痴者の夢




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 - 79 2〜3 2021/1/5
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)

パッケージ特装版

パッケージ版



<これまでのサキュレントさん作品の展開を踏襲しつつも、今まで無かった明るく楽しそうな雰囲気が特徴です。>

 この「痴者の夢」という作品は、同人ゲームサークルである「サキュレント」で制作されたビジュアルノベルです。サキュレントさんの作品は、過去に「慰愛の詩」「とも鳴りの舟」「ドブ川に散りぬ初恋の」をプレイした事があります。サキュレントさんの作品には、人間の生々しさと言いますか汚い所が露呈されるようなシナリオをイメージしてしまいます。普通よりも少しだけ不幸な人が、自分自身を更に不幸に貶めるような展開に心がざわつきますね。それを実現しているのがサークル代表の山野氏のテキストであり、唯一無二の魅力だと思っております。ですが、今回レビューしている「痴者の夢」にはこれまでの作品にはない明るさを感じました。勿論パッケージの雰囲気に油断せず慎重に読もうとは思いましたが、まずはどんな登場人物なのかを感じ堪能しようと思いプレイし始めました。

 主人公である高村のどかは、母子家庭の高校生です。友達はおらず、お母さんも昼と夜の仕事で殆ど会話をする事もありません。このまま惨めに生きていく事に寂しさを覚えたのどかは、近所に住んでいる一条正宗と出会う事で彼の家に遊びに行く事になりました。一条正宗は、由緒ある家柄である一条家に住む33歳の青年です。両親を事故で無くし、莫大な遺産と広い屋敷を手に入れ悠々自適に1人で生活しております。仕事はしておらず、時々小説を書いて暇をつぶす日常を送っております。それでも、自分の生き方を理解しており普通とは違いますが満たされた日常を送っております。そんな、同じ1人でも心持ちが全く違う2人が出会ってしまいました。年齢も高校生と33歳ですので倍近く違います。そんな2人による、非日常的な日常が幕を開けるのです。

 サキュレントさんの作品は、表面的に似ているような男女が出会い交流を深めていく中でお互いの腹のうちが明らかになっていくシナリオが多い気がします。結果として男女が離れるか結ばれるかは、腹の内を知らないと分かりません。これは現実世界でも似ているのかなと思います。始めは、見た目とか趣味とか仕事といった表面的に分かり易いものから相手の事を知ります。そこから付き合いを深めていく中で、金銭感覚とか人生感といった内面を理解していきます。最終的には、そうした部分を理解し自分の気持ちと照らし合わせてその人との付き合いを続けるか辞めるかを判断すると思います。今回の痴者の夢の様な奇跡的な出会いは現実ではありませんが、出会ってからの展開は決してフィクションではないと私は思いました。ましてや、今回は特に正宗の生い立ちが特徴的です。天涯孤独でありながらお金には苦労しない彼が、どんな事を思いながらのどかと触れていくのか是非注目してみて下さい。

 最大の特徴はビジュアルにあると思います。今作ではうさ城まに氏に原画を依頼しております。氏の柔らかいタッチはそれだけでホンワカさせてくれますし、これまでの作品とは明らかに雰囲気が違うんだなと理解させてくれます。のどかも基本的には快活で言いたい事は言えるキャラクターですし、正宗も自分の生き方がハッキリしていますので読んでいての不安感はあまりないですね。背景は非常に綺麗で、主な舞台となる一条家の中は非常にバリエーションがあります。特に光の使い方が上手で、日中・夕方・夜の雰囲気を上手く表現しております。BGMも一条家が純和風という事もあり全体的に和風に仕上げております。そして全登場人物にボイスがあります。特にメインの2人はキャラクターを良く表現しており、個人的には正宗の33歳らしさを表現した声色が印象に残りました。システム周りにも不自由なく、これまで何作もビジュアルノベルを制作している安定感も感じましたね。

 プレイ時間ですが私で2時間50分程度でした。選択肢はなく、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。読んでいて気付いたのですが、この作品は場面展開の数が非常に多くなっております。逆に言えば、一つ一つの場面は短めです。その為テンポよく読み進める事が出来ますので飽きが来ませんでした。途中豊富にHシーンの用意しておりますのでそれも良いアクセントになっております。似たような2人が出会い、時間を共有する事で果たしてどのような結末になっていくのでしょうか。女子高生と33歳男性が見る夢とはどのようなものなのでしょうか。そんな事を考えながら読んでみてみて下さい。勿論、単純にうさ城まに氏の絵柄とロリ巨乳なのどかとのHシーンを堪能するのもありだと思います。結構楽しみ方は色々見いだせる作品だとも思いました。楽しかったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<常識的な考えを持ちつつ自分なりの生き方を確立していれば恐いものなんてない、それを教えて頂きました。>

 最後までプレイして、正宗のようにここまで心が安定している人は中々見ないなと素直に思いました。生まれも生い立ちも、そして両親を失ったという出来事もその全てが一般人と一線を画しております。それでも、自分を理解し自分なりの生き方を理解し天涯孤独になっても立派に生きておりました。恐らく、のどかと出会わなくても今のままで十分幸せに生きていた事と思います。ただ、のどかと出会って幸せの形が変わったという事なんだろうなと思いました。

 私は正直、正宗が羨ましいと思いました。誰も正宗に干渉する人はいませんし、働かなくても十分な財産があります。そして、自分らしく生きる方法を確立しております。ある意味、人生の到達点にたどり着いたんだなと思いました。人間は基本的に社会性のある生き物ですので、寂しいという気持ちを無くすことは出来ないと思っております。それでも、一生死ぬ事に事欠かないと分かればまた違った心持ちになるんだろうと思います。強いて言えば、結婚とか子供を作るといった事くらいでしょうか。こればっかりは相手がある事ですので自分一人の力ではどうする事も出来ません。まあ、正宗 はそれも求めておりませんでしたので問題ないですね。加えて正宗には教養がありますからね。だらしなく生きているのではなく、家は掃除しており自炊もします。恥も持っておりますのでとても人間的です。何て出来た人なんだろうと思いました。

 一方のどかはコンプレックスの塊でした。生まれた時から母子家庭で、その母親からも愛情を受け取った記憶はありません。友達は出来ず、ずっと一人で生きておりました。のどかにとって、同級生が楽しそうに会話している様子は羨望でした。ましてや、一緒に買い物に行ったりイベントに行ったりするなんて夢のまた夢でした。ですけど、それは出来なかったのです。この作品で一番登場する言葉は「みじめ」だと思っております。のどかは自分の事をみじめだと思っておりました。かわいそうとも思っておりました。だから、始めは誰でも良かったのだと思います。自分の寂しさを埋めてくれる存在であれば誰でも良いのです。それがたとえ、自分の倍近く年上の異性だったとしても。たまたま公園で出会った正宗、たまたまニュースで知っていた顔という偶然です。ですが、それでものどかはチャンスを掴みました。きっと、絶対に正宗を離してはいけないと本能的に思ったのだと思います。

 そして、のどかとの出会いは正宗の幸せの形も変えていきました。正宗にとって、のどかはいてもいなくてもどちらでも良い存在だった筈でした。それでも、良識のある大人としてのどかの願いを叶えつつも超えてはいけないラインは決して超えませんでした。ここで言う超えてはいけないラインは、避妊せずにセックスする事です。正宗も大人ですので、性行為でも節度を持ってそれなりに楽しむ余裕があります。だからこそ、寝起きにコンドーム無しで性行為をしようとしたのどかを本気で怒りました。まだ、2人の気持ちにはすれ違いがあったのです。そのすれ違いが無くなったのが、最後の最後で原稿を燃やした時でした。この時の「この作品を世に放ったら、名声と引き換えに大切なものを失ってしまう」というセリフは痺れましたね。何不自由ない生活でしかも名声も得られるチャンスだったのに、それを失ってものどかにそばに居て欲しいと思ったのですから。やっと、お互いの気持ちが繋がりました。

 この作品を楽しく読めたのは、のどかの生い立ちの重さ以上に正宗という登場人物のキャラクターが安定していたからだと思っております。彼であれば、いざという時にのどかを決して放ってはおかないという信頼があったからです。後は、正宗の発言の一つひとつが詩的なのも面白かったです。とても育ちが良くて常識的な考えを持っているんだろうなという事が伝わりました。常識的な考えを持ちつつ自分なりの生き方を確立していれば恐いものなんてない、それを教えて頂きました。きっと、これからも末永くのどかと小言を言いながら楽しく幸せに生活していくのだと思います。正宗の事なので、のどかが学校を卒業したら突然結婚して子供も作るかも知れませんね。基本は常識的に、行動は大胆に、これが正宗らしさだと思いました。ありがとうございました。


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