M.M CHAOS;CHILD




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
10 8 8 94 35〜45 2015/10/10
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<大切なのは妄想することと諦めないこと、そして何よりも楽しむことですね。>

 この「CHAOS;CHILD」という作品、ビジュアルノベル業界に触れている方であれば一度は耳にしたことのあるタイトルだと思います。5pb.で展開している科学アドベンチャーシリーズの第4弾タイトルであり、第1弾である「CHAOS;HEAD」から6年後を舞台としております。科学アドベンチャーシリーズという事で科学的根拠に基づいたシナリオが特徴であり、その綿密さとリアルさは多くのファンを生み出しております。とりわけ第2弾である「Steins;Gate」は発売後直ぐに話題になり、発売から1年半ほどは中古ショップでもプレミアが付く程の現象となりました。そんな科学アドベンチャーシリーズの最新作という事で多くの方がプレイしており、私も知り合いの方から勧められたという事でネタバレを喰らう前にプレイしようと思い今回のレビューに至っております。

 「CHAOS;CHILD」のジャンルは「妄想科学ADV」となっております。科学アドベンチャーシリーズの特徴として、各タイトルで微妙にジャンルが違っている事が挙げられます。同じ時間軸である「CHAOS;HEAD」は妄想科学NVLと共通ですが、「Steins;Gate」は想定科学ADVですし「ROBOTICS;NOTES」は拡張科学ADVです。そしてこの微妙なニュアンスの違いはそのまま作品性に反映されております。「CHAOS;CHILD」の最大の特徴はそのジャンルの通り妄想です。プレイヤーは主人公がどのような妄想をするかを選ぶ「妄想トリガー」というシステムでその後の展開を選択し、それが物語の結末を変化させていきます。そしてこの妄想はシステム的な意味を超えて物語の展開に大きく関わっていくのです。

 主人公である宮代拓留は私立高校「碧朋学園」に通う3年生です。自分自身を「情強」と語っており、クラスメイトやネット上にいる情弱を見下しながら新聞部の部長として事件を追う生活をしております。ですが情強を語っておきながら他人とのコミュニケーションが苦手であり、そのどこか屈折した性格は如何にも現代の男子高校生といった印象を与えてくれます。そんな主人公が通っている碧朋学園は東京の渋谷区に存在し、ここでは6年前に「渋谷地震」という大災害が発生しておりました。主人公もこの地震に巻き込まれ、現在の生活に大きな影響を与えております。それでも幼馴染の尾上世莉架、地震の後に家族同然で暮らしてきた来栖乃々を始めとしたメンバーに支えられ、今日まで健やかに生活しております。物語は、そんな渋谷で発生した「ニュージェネレーションの狂気の再来」と呼ばれる事件に関わるところから始まり、これが主人公を数奇な運命へと巻き込んでいきます。

 正直なところ、この作品の魅力を語ろうと思えば幾らでも出てきます。実際の渋谷を舞台としているという事で背景や地理関係を完全にトレースしており、非常にリアリティを感じます。また科学ADVらしい切れ味は今作も健在で、事件を推理していく過程でご都合主義を用いらず現実的なフィールドワークで真実へと近づいていきます。BGMもそんなサイコな雰囲気を反映したものであり、単体で聞く以上の魅力を持っております。最大の魅力を挙げるとすれば、やはり演出にあると思います。今回主人公たちが関わるのは非常に猟奇的な殺人事件であり、グロテスクな描写が多く登場します。その演出は決して妥協することがなく、血が吹き出ているとか一言では言い表せない残忍な描写ばかりです。レイティングもHシーンが無いのにも関わらずCERO:Z(18才以上のみ対象)となっており、そういった描写が苦手な方は正直EDにたどり着けないと思います。またグロテスクな描写のみならず、主人公(とプレイヤー)を震えさせるホラー的演出も強烈です。死体の残忍な描写の演出にプレイヤーを震えがらせるホラーの演出、そんなドキドキを味わいたい方にもオススメかも知れません。

 後はやはり主人公達と一緒にプレイヤーの皆さんも事件の謎を探ることですね。これまで科学アドベンチャーシリーズを1つでもプレイされた方であれば分かるかと思いますが、とにかくプロットが非常に壮大です。始めはちょっと不気味な事件だなと思っていたらそれがどんどん膨らんでいき、いつの間にか後戻りの出来ない状況に陥っていると思います。上でも書きましたが、宮代拓留は表向き情強を語っているだけのコミュ障です。突っ走るだけ突っ走って気がついたら取り返しのつかない展開になるのは目に見えております。是非そこはプレイヤーが冷静になって状況を把握し、事件解決の手助けをして欲しいですね。ハッキリ言って事件の結末を予測するのは不可能です。予想だにしない展開に何度も唸ることと思います。それでも諦めず投げ出さずに精一杯向き合って頂ければと思います。

 プレイ時間は私で約36時間程度掛かりました。このプレイ時間はいわゆるグランドエンディングにたどり着くまでの事件でして、1周プレイしただけでは全然物語の真実にたどり着きません。非常にボリュームが大きいものとなっております。それでもクリアだけを考えれば決して難易度は高くありませんので、是非長いスパンを意識して丁寧に読み進めて頂ければと思います。まずはそこまで深く悩まずに妄想トリガーシステムを楽しみ、主人公の情強っぷりとヒロインの人間性を楽しみ、そして1つEDにたどり着くことです。そこからが本番です。是非諦めずにグランドエンディングにたどり着いて欲しいですね。大切なのは妄想することと諦めないこと、そして何よりも楽しむことですね。超オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<楽しかった?妄想科学ADV。>


 正直、言いたい事は山ほどあります。ですがその殆どは私の直感のようなものであり、敢えてここで文章化するものでは無いと思っております。力士シールは不気味でしたし、病院を散策している時は怖かったですし、結衣の死体なんてなんなんですかあれ!!やりすぎでしょうあれは!!よくもまああんな残酷な殺し方を考えるものですよ!!世莉架や乃々の正体にもやられましたし、佐久間や和久井の豹変っぷりにもやられました。明かされては登場し明かされては登場する謎、そして残虐な事件と残酷な現実、上げれば切りがありませんね。

 ですが、そんな厳しい境遇でも主人公とヒロインたちは自分の答えを出すことが出来ました。辛くても苦しくても、自分の大切な人のために未来を選択しました。壮大なシナリオに負けない納得のいくEDだったと思います。是非皆さん1人1人が心に感想を持って頂き、彼らの未来を見守って頂ければと思います。

 という訳でシナリオ考察についてはここではあまり触れない事にします。正直、私が書きたいことはただ1つだけです。それは、



何故「CHAOS;CHILD」は「妄想科学ADV」なのか?



という事です。表向きは「妄想トリガー」システムがあるからだと思います。ですがプレイし終わって「妄想する事そのものがカオスチャイルド症候群の真実」である事は明らかにされ、これが本当の理由だと思いました。ですが、私はこれすらも表向きの設定だと思っております。プレイ中ずっと思っていた違和感、それをここで吐き出そうと思います。

 実は私、科学アドベンチャーシリーズは「Steins;Gate」しかやった事がありませんでした。世の中的に大変話題になっていた作品でありましたし、その科学的設定の深さは誰もが唸るものだと思います。当然「CHAOS;CHILD」にも同様のシナリオ展開を期待しましたし、結果として十分期待に応えてくれました。

 ですが途中から「Steins;Gate」には無い明らかな違和感に苛まれました。第一章から第五章の前半までは「Steins;Gate」と全く同じように読んでました。ですが第五章の途中で「あるもの」が登場してから、一気に違和感として心の隅っこに残り続けました。それは、



ディソード



です。「CHAOS;CHILD」の数量限定版のパッケージにいる人物は、全員ファンタジーを連想させる剣を持っておりました。ですが、プレイを始めて暫くしても全然この剣が登場しないのです。いつしかそんな剣の事も忘れて第五章の山添うきを救出したところまで来ました。そして唐突に登場したのがディソードでした。

 正直頭を殴られたような感覚に襲われました。すっかり忘れている自分がいたのもそうですが、このディソードの登場で一気に「きな臭い」と思ってしまった自分がいたのです。あれ?科学アドベンチャーってこんなんだっけ?って思いました。「Steins;Gate」には明らかに登場しないファンタジー要素だったのです。

 そしてこのディソード登場を皮切りにギガロマニアックス要素が一気に表に出だしました。杯田理子のパイロキネシス。世莉架の豹変と思考盗撮。佐久間の豹変と思考誘導。特に「思考誘導」は正直ズルいって思いましたね。丁寧に丁寧に心理描写やセリフの1つ1つを考察してきたプレイヤーにとっては「丸投げ」にすら思ったかも知れません。伏線と言えば聞こえはいいですが、思考誘導を持ち出せば正直もう「何でもアリ」な状況を作れますからね。

 だからこそ私は思ったのです。



どうしてここまで前半と後半の落差が激しいのだろう?



って。前半は「Steins;Gate」のようにファンタジー要素の欠片もないリアルな展開でした。ですが後半はもうヒロイン同士がディソードでドンパチやってるんですよ。冷静に考えて随分とまあ印象が変わっていると思います。完全にファンタジーじゃないですか!それでいいのか科学アドベンチャー!って思いました。

 そして、ネタバレ無しの表題に戻る事になります。この作品のジャンルはなんだったのでしょう?それは、



妄想科学ADV



です。この作品は妄想なんです。妄想はファンタジーなんです。何でもアリなんです。私はこの事を軽く考えてました。妄想はあくまで「妄想トリガー」の為であり、実態は「Steins;Gate」のような超リアルな内容だと思ったんです。これは完全に私のミス。「Steins;Gate」は「想定科学ADV」です。始めからこの2つはジャンルが違っていたんです。

 だからこそ、「CHAOS;CHILD」はディソードでドンパチやってもいいんです。思考誘導でどんでん返しをしても良いんです。ありえない死に方をしても良いんです。「渡部の胃にどうやって力士シールを詰め込んだのか?」とか考えてはいけないんです。大事なのは「妄想」という事が象徴的なものではなくしっかりと作品の根幹として生きているという事。私のように「Steins;Gate」と「CHAOS;CHILD」を同列に見てはいけなかったんです。

その事に気づいたとき、この作品が色鮮やかに見えてきました。
思えばヒロインもいわゆる「萌え絵」なのも「Steins;Gate」との大きな違いですね。
だったら設定のリアルさには多少目を瞑り、もっとキャラクターの心情に寄り添うことにしました。
そしたらもう楽しいじゃないですか!
素直に応援したくなるじゃないですか!


乃々優しい!
雛ちゃん超乙女!
うきちゃんロリ!
華おっぱい!
力士力士力士!

そして世莉架!
超一途!
こんな泣かせてくれるヒロイン滅多にいないですよ!
そして宮代超頑張った!
始めはヘタレ系主人公でイライラしてましたけど、最後によくあの決断を下せました!
超立派!
超主人公!
実にいいファンタジーでした!




 もし今になって「楽しかった?妄想科学ADV。」と聞かれたら間違いなく「ハイ!」と言えます。「CHAOS;CHILD」は妄想なんです。ファンタジーなんです。そんなフィクションの世界で懸命に自分の運命に悩み苦しみ抜いた男女の物語でした。ありがとうございました。


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