M.M Borderline Detectvie




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 - 78 3〜4 2017/11/23
作品ページ(R-18注意) サークルページ
(作品ページと同じ、R-18注意)



体験版
エロゲと饗



<人間関係に不器用な2人の歪な百合関係と本格的な安楽椅子探偵という2面性が余す事なく表現されておりました。>

 この「Borderline Detectvie」は同人ゲームサークルである「Voltage In the Practice」で制作されたビジュアルノベルです。Voltage In the Practiceさんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。切っ掛けはC92で島サークルを回っている時でした。Voltage In the Practiceさんは元々2chのニュー速VIP板で生まれたサークルさんという事で、そのノリと勢いを引き継いだ呼びかけが印象に残っておりました。平たく言えば、目立っていたのです。常に大きな声で宣伝をしており、道行く人は誰もが目を向けておりました。そんなVoltage In the PracticeさんのC92新作が今回プレイさせて頂いた「Borderline Detectvie」であり、こちらもまた肉感的でありヤンデレ気質な女の子の姿が印象的なパッケージで目を引きました。サークルさんの結成も作品のコンセプトも中々みないものという事で、如何様な内容なのか気になり今回のレビューとなっております。

 主人公である菅野美智緒は実習中の看護学生です。幼少の頃から自分で物事を決めることが苦手で、看護師を目指しているものの内心自分には向いていないのではないかと思っております。他にも新しい人間関係を作るのが苦手、嫌われない事に臆病など劣等感が強く、漠然とした将来に悩んでおりました。そんな美智緒がある日看護学校から帰る途中、草むらに倒れている女の子を見つけました。この女の子が本作のヒロインである水納理瀬であり、ロリータファッションと男ウケしそうな豊満な体、そしてキラキラした表情とまさに女の子であれば誰もが憧れるような容姿を持っております。その上頭脳明晰であり物事の洞察力が大変高いという特技も持っており、非の打ち所がない印象でした。ですが、そんな彼女には致命的な欠点があったのです。そんな美智緒が理瀬と出会い成り行きで同棲生活を送るところから物語が始まります。それはそれは、愛憎溢れるドロドロとした同棲生活が。

 この作品のジャンルは「メンタル不安定な名探偵が男どもを地獄に叩き落とす18禁百合サイコ・サスペンスノベルゲーム」です。そしてパッケージの表紙に目をカッと見開いた理瀬の姿が描かれております。もうこれだけでこの子が普通ではない事が伺えます。作中では「ヤンデレでもメンヘラでもない現実の病み属性「ボーダー」」と称しており、何れにしてもコミュニケーションに重大な障害を持っている事が想像できます。圧倒的な存在感を醸し出すヒロインに対して余りにも薄い主人公、ですがこの主人公もまた劣等感の塊という特性を持っております。人間関係が苦手な2人の百合関係はまさに一寸先は闇です。彼女たちに共感できる人は果たして何人いるのでしょうか?是非普通ではない百合関係を味わってみて下さい。

 またこの作品はまともじゃない百合関係という部分とは別に殺人事件を追うというミステリー要素も含んでおります。物語が進んでいく中でとある事件に巻き込まれ、その解決のために彼女たちが奮闘するのです。作中でも、実際に一枚の写真から注目するべき点をプレイヤーが選びそこから分岐するというシステムも用意されております。ただ選択肢を選ぶだけではないゲーム性が面白いですね。歪んだ人間関係は別にして、理瀬の安楽椅子探偵の才能は紛れもなく本物です。そんな彼女と共に事件の解決も目指して欲しいですね。割としっかりと答えを選んでいかないとTrue ENDにはたどり着けないと思います。結果として総当りで全てのエンディングにたどり着けますが、是非自分の力でエンディングにたどり着いて欲しいですね。

 他には音楽・背景などが全てオリジナルです。このあたりは流石2chのニュー速VIP板で生まれたという強みを感じましたね。音楽はエレキの効いたメタルやピアノの寂しげな独奏などジャンルの幅が広く、場面にあったものばかりでした。背景は実際に描いたものや写真を加工したものなど様々であり、同じものは一つとしてありませんでした。まるで実際の位置関係を再現しているかのようです。途中何度も登場するデフォルト絵も可愛かったですし、どのキャラクターも魅力的に表現しておりました。

 プレイ時間は私で3時間50分くらいでした。この作品は章単位で構成されておりまして、章の変わり目でカットインが入りますので場面転換がわかり易いです。エンディングは何種類かありますので、途中の選択肢や写真選択の場面でセーブしながら検証していくのが良いと思います。とにかく見るべきポイントが多いです。ボーダーなヒロインに注目するのか、劣等感の塊である主人公に注目するのか、歪んだ百合関係に注目するのか、殺人事件に注目するのか、答えはずばり全部です。C92での大きな宣伝らしく力のある作品でしたので、是非どのような結末になるのか楽しみに読んでみて下さい。最後に1つだけ注意点を。ボーダーという特性上流血などのシーンも登場します。それはもうHシーンがある無し関係なくR-18になる程です。くれぐれもお気をつけて。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<偽善者って本当に自分の事しか思ってないの?本当は相手の事もちゃんと思っているのでしょう?>

 偽善者。最後までプレイして私はこの言葉が一番引っかかりました。相手の話を全然聞かずいつも自分中心の理瀬、相手の顔色ばかり伺って自分の事を封じ込んできた美智緒、そんな2人が始めから相手の事を気遣う事なんか出来ないんですね。例え言葉の上で気遣ってもそんなものは自分を守りたいだけの表面的なものでしかありません。まさに偽善。それが偽善でないと自分に言えるようになったとき、それが物語の終わりの時でした。

 私も現実でリアルのメンヘラやヤンデレという存在にあった事がありませんので何とも言えないのですが、個人的にヤンデレやメンヘラの特徴って相手の話を聞かない事だと思っております。相手の話を聞かず全部自分の中に閉じこもってしまい、思考が負のスパイラルを産んでとんでもない思い込みに発展してしまう、大体はこういったプロセスだと思っております。相手は自分の事が嫌い、それなら嫌われないように尽くさなければ=メンヘラです。相手は自分の事が嫌い、どうして嫌いになるの!?=ヤンデレですね。こんな事、相手に一言確認すればいいだけの話なんですけどね。

 ですけどそれが出来れば誰もヤンデレやメンヘラになる事はありませんね。相手に自分の事を聞くことが出来ない、これは誰もが経験した事があると思います。何故なら、自分の事を否定されるのが怖いからです。では、どうして自分の事を否定されるのが怖いのでしょうか。それは自分の事が好きだからです。この作品では自己愛についても深く掘り下げておりました。自分が可愛いとまではいかなくても、せめて自分くらいは自分の事を信じてあげたい。それが主人公美智緒の内心だったと思っております。だからこそ、失敗するのは絶対に出来ませんに人からお願いされた事を断ることもできません。そして他人に優しくできる自分を演出したい、これも自分の事を信じたいという気持ちの表れだと思います。

 そんな美智緒を偽善者とバッサリ切ったのが理瀬でした。理瀬こそ自己愛の塊でしたね。自分は可愛い、自分は魅力的、自分の事を好きにならない方が悪い、そんな性格だから何人もの男を引っ掻き回せるんですね。計算なんかじゃない、まさに本能での行動でした。当然、自分の事を心から愛していない美智緒に対しても辛辣にあたります。偽善者なんて、オブラートの1枚も包んでいない言葉ですね。そりゃ男どもに恨まれますよ。結局のところ、エンディング直前でこれまで関わった男どもに復讐される場面でも、理瀬は自分の気持ちを曲げませんでした。「あたしはもう嘘を付きたくない!」「あたしは間違ってない!」見事でしたね。もう惚れ惚れするくらいの自己愛です。

 「誰かを真剣に愛してるって、本当に確信を持って宣言出来るの?」牢獄に閉じ込められた美智緒エンディングで言った言葉です。誰かを真剣に愛する、これって自分の事は二の次なんですね。それだけ真剣であり本気だという事です。そしてそれは同時に相手の事を真剣に考えるという事です。最後理瀬を救出するために車で向かった美智緒に迫られた選択肢「僕には出来る」「僕には出来ない」、一見「僕には出来る」の方が正しく思えます。ですが、そうではありませんでした。今の自分には、理瀬を本当の意味で救うことは出来ない。理瀬を救う事が出来るのはしかるべき医療機関である。これは自己愛でも偽善でもない、真剣に相手の事を考えた結論でした。この決断が出来た時、それが美智緒が1つ自分の苦手を克服できた証拠でしたね。

 True ENDでは、3年間の療養生活を経た理瀬が多少マイルドになって帰ってきました。持ち前の自己愛は変わらずでしたが、少しは相手の気持ちが分かるようになったのでしょうか。自分の事が好きだった2人ですが、実は同時に相手の事も好きでした。そしてそれは3年経つ前も後も変わりはありませんでした。変わったのは、少しの勇気と周りを見る力。これからも不器用な関係が続く事でしょうが、ぶつかりながらもまあそれなりに幸せになれるんじゃないかと思いました。自己愛とは何か、偽善とは何か、本当の愛とは何か、綺麗なものなど1つもない中で、たった一つ綺麗なものを見つける事が出来た物語だったと思っております。ありがとうございました。


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