M.M 僕が殺めた人たちについて




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 7 78 〜1 2020/1/10
作品ページ サークルページ



<殺人は何故行ってはいけないのか、当たり前が何故当たり前なのかを考える良い切っ掛けになる作品でした。>

 この「僕が殺めた人たちについて」という作品は、同人サークルである「イトQソフト」で制作されたビジュアルノベルです。イトQソフトさんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。TwitterにてイトQソフトさんの事を知った事が切っ掛けになりました。ビジュアルノベルを制作しているサークルさんであり、C97でサークル参加されるとの事ですので是非手に取ってみたいと思いました。C97当日にサークルさんに立ち寄り、目に留まったのは「僕が殺めた人たちについて」というタイトルと好青年に見える少年のジャケットでした。クローン人間がテロ兵器として使われる世界観に、どのようなシナリオが待っているのだろうと楽しみに思いました。プレイ時間も短めとの事で、じっくり読んでみようと思い今回のレビューに至っております。

 主人公はクロとシロと呼ばれているクローン人間です。彼ら2人はとある施設で人を殺すテロ兵器として飼育され、一定の年齢になった事で施設から解き放たれました。彼らの目的は人を殺す事、それも効率的に沢山の人を殺す事です。ですが、彼らに教育されたのは社会の仕組みや言語などでありいわゆる殺人に対する教育は特にされておりません。人を殺す方法を、自分自身で見つけなければいけないのです。知識はあっても経験のない2人が、大都会に足を降ろしここから人を殺すために行動を始めるのです。果たしてクロとシロは人を殺すのでしょうか、クローン人間である自分の人生をどう思っているのでしょうか、人生感に訴える物語が幕を開けました。

 普通の人であれば、クローン人間が人を殺す兵器として使われるなんてとんでもない事だと思うと思います。人殺しは絶対に行ってはいけない、そう思うのが当たり前だと思います。ですが、それを実感として持っている人は実は少ないんじゃないかと思いました。人を殺してはいけない、それは何故でしょうか?答えの一つとしては、法律で殺人を行うと処罰されるからです。では、殺人をしても処罰されなければ殺人をするのでしょうか?何を言っているのかと思うと思いますが、もし殺人をする事に抵抗を持たない人がいたらあなたはどうやって説得するでしょうか。ましてや、生まれた時から人を殺す事が使命であり目標だと教え込まれた人がいたらどうやって止めるでしょうか。この作品を通して、殺人という事や人生という事について改めて考える切っ掛けになると思います。当たり前の事が何故当たり前なのか、是非自分の人生と照らし合わせて考えて頂ければと思います。

 またこの作品は福岡を主な舞台としております。クロとシロは、殺人を犯す場所を博多と決めたみたいです。ですが知識も準備も何もありませんので暫くは福岡を中心に動きながら準備を進める事になります。その際に描かれる背景や地名などは恐らく実際にある場所なのだと思います。写真を加工した背景に時間を掛けて準備された様子が伝わりました。他にも、人間味のある登場人物がいたりとただクロとシロが殺人を行うまでの軌跡ではない場面が待っております。後は、実際に日本で起きた殺人事件を調べ考察した内容も盛り込んであります。主人公たち、登場人物たち、史実など様々な視点から殺人について考える事が出来ます。

 プレイ時間は私で50分程でした。50分という短い時間の中で、しっかりと殺人というテーマについて語っておりました。選択肢もありませんので、テキストに集中してしっかりと彼らの生き様を見届けて頂ければと思います。昨今様々な価値観が目に留まりやすく、自分らしさを見失いがちになってしまう現代だからこそ、殺人を犯す事や人と触れあう事について一度腰を据えて考える必要があるのかなと思いました。なかなかリアルの身近な人との話題には取り上げ難いからこそ、こういった表現物を活用するのが良いのかも知れませんね。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<かわいそう等という人なんて無視すればいいんです。自分らしく生きられればそれで良いんです。>

 私、この作品で一番心に響いた言葉はクロとシロが吉永と初めて会った時に吉永が言った「かわいそうに……」でした。クローン人間として飼育され、人間らしさや社会性を一切持たず、たった一つの価値観でだけ生きているクロとシロに対して吉永が素直に思った事です。このかわいそうには、言葉以上に重みがあると思いました。

 この作品は殺人について取り扱った作品ですが、それ以上に人はどうやって生きるのかという事を訴えた作品だと思いました。吉永は既に両親を亡くしており、加えて自分の親族が起こした交通死亡事故の償いを行う日々を送っております。交通整理員の仕事は激務であり、家はお世辞にも綺麗とは言えないアパートでしょうか。傍から見て幸せそうな生活にはとても見えません。皆さんはこの吉永の生活を見てどう思ったでしょうか?かわいそうと思ったでしょうか?吉永に対してどう思ったかはとりあえずプレイヤーの心の中に留めておいてください。少なくとも、吉永の生き方はクロとシロに大きな影響を与えました。

 吉永は生活こそ大変そうでしたが、人間らしい気持ちを持っておりました。殺人はしてはいけない、罪は償わなければいけない、困っている人がいたら助けなければいけない、そんな当たり前の気持ちを持っておりそれを実践しておりました。普通、クロとシロのような得体の知れない人がいたら放っておきます。でもそんな事はせず、家に上げるばかりは仕事を紹介したり死に向き合った人に触れさせたりと献身的にクロとシロを支えました。立派ですね。生活が貧しい事と心が貧しい事は全然違うなと思いました。特に最後、クロとシロがクローン人間と分かってからも「人を殺したら、もう生きていけないぞ!」と言葉を掛けました。本当に、吉永はクロとシロに向き合ったんだなという事が伝わりました。

 私は日々の生活の中で「かわいそう」という言葉を出来るだけ使わない用にしようとしております。理由ですが、相手に対して線を引く行為だからです。かわいそうの様に自分を基準として相手に対して評価をしてしまうと、どうしてもそのイメージで固めてしまいます。それはもうその人との関わりを決めてしまう事、少なくとも相手に干渉しようというとはならないからです。だからこそ、吉永がクロとシロに「かわいそうに……」と言ったのでこれ以上干渉しないのかなと思いました。結果としてそうではなかったので立派ですね。少なくとも、人に対してかわいそうなどと思うのはおこがましい、これが私の中で一貫した考え方になっております。

 そういう訳であまり登場人物に対してかわいそうとはいい難いのですが、この作品で一番かわいそうと思ったのはシロでしたね。クロとシロは性格こそ違えどクローン人間として忠実に命令を守ろうとする道具でした。ですが、吉永との出会いの中でクロは殺人と死について考える切っ掛けを貰いました。人間一人ひとりには膨大な情報量を持つ小宇宙がある、それを一瞬で消す事に嫌悪感を覚える。これがクロが短い期間で自分でたどり着いた考え方でした。これに良い悪いもありません。大切なのは、自分の意思を持ったという事です。ですがシロはそうではありませんでした。というよりも、シロは自分の考えを持つ事が出来ず最後まで道具であり続けました。もう、クローン人間である事に縛られないのにです。同じ人間なのに考える事が出来ない、この点に対してかわいそうと思ってしまいました。

 最終的にクロとシロは誰も殺しませんでした。唯一殺したのは自分自身でした。世の中的に、きっとクロとシロは当たり前の日常はおくれないのだと思います。非合法な方法で生まれ、身寄りもなく奇異の目で見られる、そんな人生生きていても苦痛なだけです。だからこそ、自分で自分の生きる意味を見つけなければいけないんですね。かわいそう等という人間なんて無視すればいいんです。大切なのは自分で考えて生きる事、自分らしさを見つける事かなと思いました。お金が無くても構わない、結婚出来なくても構わない、子供が出来なくても構わない、そんな事を思いました。ありがとうございました。


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