M.M 囚われのアストライア




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
3 4 1 58 〜1 2016/2/6
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<パッケージの少女がどのような笑顔を見せてくれるのか想像しながらプレイしてみて下さい。>

 この「囚われのアストライア」は同人サークルである「ぶるぅむそふと」で制作されたビジュアルノベルです。ぶるぅむそふとさんに初めてお会いしたのはC89で同人ゲームの島サークルを回っている時でして、水彩画のように綺麗な少女のパッケージに惹かれて手に取っておりました。お金持ちのお嬢様の様な風体ですがその瞳はどこか寂しげで、手に抱えている猫しか友達がいないような孤高の雰囲気。この少女がどのような笑顔を見せてくれるのか楽しみにしながらプレイし今回のレビューに至っております。

 主人公であるアルクトゥルス(以下アルク)はクロノスと呼ばれる街に住んでいる少年です。この街は戦争も犯罪も殆どない世界一平和な街。その代わりに高い税金と0:00〜4:00の間に外出を禁ずるというお布令がありますが、それさえ守れば一生安泰な保証されるのです。その為街の人の多くはこの街に不満や意見を持たず、日々政府に感謝しながら閉鎖的に過ごしておりました。ですがアルクはそんな街の姿に疑問を持っており、仕事をしている時も常々政府に対する疑問を口にしておりました。その為仕事はすぐ首、転々と職を変えながら今日まで生活しておりました。物語はそんなアルクが0:00〜4:00の間に外出してみようというところから始まります。果たして平和の裏側に何が待っているのか。パッケージの少女はどのように少年と関わってくるのか。色々と裏設定を妄想しながらプレイすると楽しくなると思います。

 最大の特徴はパッケージに代表される水彩画のような絵柄ですね。背景素材はCGで作ったものもありどこか無機質的な印象を受けましたが、その分物語随所に挿入される一枚絵の綺麗さが映えます。どれも人物を中心に据えており、特にメインヒロインであるアストレア(以下アスティ)の表情や仕草がとても可愛らしいです。ですが始めからアストレアが可愛い仕草をしてくれる訳ではありません。上でも書きましたがこの作品の舞台はクロノスという閉鎖的な街。まるでその象徴といえるようなアストレアの表情がいつどのような切っ掛けで笑顔に変わるのか。是非その瞬間を楽しみにプレイして頂ければと思います。

 プレイ時間は私で35分程度掛かりました。複雑な街の設定やキャラクター設定がありながら物語はかなりサクサク進み、気が付けばEDを迎えておりました。正直に言えば短すぎました。それぞれの設定をもっと深く掘り下げ、もっともっと長い時間この作品に触れていたいと思いましたね。感情移入する前に終わってしまったのが残念でした。それでも登場人物達の変化を垣間見れますので、短編小説を読む感覚でお菓子でも食べながら楽しんでみては如何でしょうか。プレイ後は是非CGを見返して、短いながらも変化のある表情をお楽しみ下さい。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<今後2人は、エイレネのルーツを探しエイレネの強さを学ばなければいけませんね。>

 この作品はグッドエンドなのでしょうか?それともバッドエンドなのでしょうか?クロノスというディストピアから抜け出し家族として幸せな生活をしようと心に決めた3人。ですがそれは未来永劫叶わぬ夢となりました。それでも生き残ったアルクとアスティで慎ましい生活を送る事が出来ましたが、最後どこか共依存な雰囲気が見えて手放しで喜べない印象です。何故エイレネは命を落とさなければならなかったのか。2人はその意味をこれからの長い時間を掛けて探す必要があると思いました。

 上でも書きましたがやはり絶対的にテキスト数が少なく感じました。アスティが屋敷で生活している時に感じていた孤独や無力感、そしてそんな箱庭のような世界から抜け出しつかの間の自由な時間を得て日々新しい事を吸収しようとする姿、もっともっと見ていたかったです。この作品はアスティが過去の自分から脱却し新しい自分を探し求める事がテーマに思えました。クロノスを抜けて笑顔を取り戻し、料理や剣を学んでどんどん積極的になっていく姿は見ていてとても微笑ましいものでした。後半アルクに対して自分で作ったオムレツを出して「ご・感・想・は?」と言っている姿はその象徴でした。だからこそ、そんな姿を地の文だけではなく会話などを交えて表現できればより効果的だったのではないかと思っております。

 そしてそんなアスティに対してアルクとエイレネはどのような立ち位置だったのでしょうか。正直アルクについては気持ちが先行して行動が伴わず主人公らしくないと思いました。アスティを守るはずのアルクが逆に斬りつけられては最後に悲しむのはアスティです。気負うことは大事ですがそれで結果が伴わなければ皆不幸になってしまうのです。ですが、逆にそんなアルクの姿だからこそ対比してアスティの成長が際立っていました。始めからこれが狙いだったのだと思っております。そしてエイレネは心の中でどのように思っていたのでしょうか。いつから彼女はアルクとアスティの為に死のうと思っていたのでしょうか。恐らくおじさんとおばさんが殺された時から密かに決意していたのだと思います。あんな狂人達に勝てるはずがない。ならばせめて家族と決めた2人には生きてもらいたいと思ったのだと思います。結果としてその決断は正しかった訳ですが、だとすればアスティとの気持ちの乖離が余りに大きいという事になります。未来を夢見ているアスティと未来を冷静に見つめているエイレネ、この対比もまたアスティの成長を際立たせております。もしかしたら、アルクとエイレネは2人ともアスティの成長を表現する為に用意されたのかも知れませんね。

 最終的に生き残った2人。あの恐ろしいエウノミアも死にましたので誰も2人の生活を脅かす事はありません。ですがこの幸せはエイレネが命を投げ捨てて得ることができた幸せです。彼女の死を悔やむだけではなく、いつか彼女を知っている人物を辿り彼女の軌跡をなぞる必要があると思いました。愛を知らない2人にとって今後様々な試練が待っていると思います。その時に本当の意味でエイレネが力になる為にも、彼女の生き方と強さを学んで欲しいと強く思いました。ありがとうございました。


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