M.M 明日の為に出来ること
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
5 | 4 | - | 70 | 1〜2 | 2017/4/11 |
作品ページ(なし) | サークルページ |
<主人公とヒロインの2人のこそばゆい会話を聞きながら、明日の為に出来ることを探してみましょう。>
この「明日の為に出来ること」という作品は同人サークルである「ななぎあ」で制作されたビジュアルノベルです。ななぎあさんとの出会いはC91で同人ビジュアルノベルの島サークルを回っている時でして、その時に手に取らせて頂いたのが今回レビューしている「明日の為に出来ること」です。振り向いて笑顔を見せる女の子の姿が特徴的であり、背景には実際に撮影された桜の景色が描かれております。何よりも「明日の為に出来ること」というタイトルが、ただ女の子と仲良くするシナリオになるとはとても思えません。どこか人生観に訴えかけるシナリオが待っている事を期待してプレイし始めました。
主人公である高槻廉太郎は19歳のフリーター、もとい無職生活を送っております。とても明るい性格なのですが、高校生時代にその性格が時に空回りしてしまい周囲から浮いてしまう事がありました。その後紆余曲折を経て現在無職生活を送っているのですが、いつも立ち寄る近所の公園でとある女子高生に声をかけられます。彼女の名前は桜乃飾、彼女もまた学校生活や家庭環境で色々と問題を抱えておりどこか屈折した性格を持っておりました。そんな彼女ですが何故か初対面の主人公に「私と付き合ってくれませんか!!」と告白してしまいます。そして告白を受けた主人公もしどろもどろ。そんな歪な関係から始まった交際は、やがて1つの目標に向かって進みだすのです。
この作品の最大の特徴は主人公である高槻廉太郎とヒロインである桜乃飾の掛け合いです。上でも書きましたが廉太郎も飾も共に性格や人間関係に難を抱えており、いわゆる普通の生活を送れずにいました。そんな2人の出会いですので交際もすんなりと行くはずがなく、相手の気持ちを推し量りすぎたり自分の気持ちを素直に言えなかったりと不器用な関係続きます。これが時に痛々しすぎるほど見ていられなく、こっちが恥ずかしくなるようなこそばゆさです。それでもお互い少しずつ勇気をだし合い素直になり、徐々に関係を深めていく様子に思わず応援したくなります。そしてそんな関係は2人だけの世界から飛び出し、友人関係や家庭環境にまで思わぬ形で影響を与え出すのです。明日の為に出来ること、是非その答えを一緒に探してみて下さい。
またこの作品は実際の景色を背景として使用しております。どこの景色かは背景を注意深く観察していれば、実は誰でも分かるようになっております。私自身プレイ後にGoogleマップで確認してみまして、実際に彼らが生きている世界を忠実に再現している事が確認できました。恐らくサークルさんの故郷なのか現在生活している街なのでしょう。間違いなく言えるのはサークルさん縁の地であるという事です。他にもテキストについてですが、驚く場面ではフォントを大きく、どこか自信なさげな場面では文字を補足する等の工夫がされております。是非シナリオを読みながら厳選された背景と工夫されたテキストも楽しんで欲しいですね。
プレイ時間は私で1時間45分でした。選択肢は存在せず、一本道でエンディングまで読み進める事ができます。一点どうしても気になる点として、システム面があげられます。この作品はバックログやコンフィグがありません。私の場合コンフィグが無いのはそれ程問題ではないのですが、バックログが無いのはビジュアルノベルとしてはちょっと致命的かなと思っております。勢いでクリックしてしまうともう読めなくなるのですから。そういう意味でやや慎重に読み進めていきましたね。どこかのタイミングで改善して欲しいと思いました。全体としてそこまでボリュームがあるわけではありませんので、焦らずのんびりとプレイするのが良いと思います。是非穏やかな気持ちで2人の行く末を見届けてください。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<1人で出来なくても2人一緒にする事で一歩前に進む事が出来る。それを確かに感じる事が出来ました。>
空気の読めない行動や発言でクラスで浮いてしまい、それが切っ掛けで不登校になってしまった廉太郎。逆に人と話すことが苦手でクラスで浮いてしまい、それが切っ掛けでいじめに遭ってしまった飾。そんな正反対の2人が出会うことで一緒に頑張っていくシナリオは非常に分かり易いものであり、テーマもハッキリしていてとても読後感の良いものでした。どんなに厳しい状況でもケセラセラっている事が、案外物事を好転させる一番大切なことなのかも知れませんね。
正直な話、どうしてこの2人が高校で浮いてしまったのが不思議でした。廉太郎は確かに空気が読めなかったかも知れませんが、クラスで決して嫌われていた訳ではありませんでした。おバカなキャラというのはむしろ周りから弄られる分孤立する事はなく、自分が気にしなければそれなりに思い出に残る高校生活になるはずでした。飾もまた人と話すのが苦手だったかも知れませんが、それで学校を休む事はなくむしろ決断力については意外と肝の据わったところを見せてくれました。何よりも負けたくないという気持ちを失わずにずっと持っておりました。そんな2人が浮いてしまった理由、それはもしかしたら自分は結局1人なんだという気持ちが根底にあったからなのかも知れません。
この作品のテーマは「1人で出来なくても2人一緒にする事で一歩前に進む事が出来る」という事だと思っております。今作では特に飾について焦点が当てられておりました。クラスメイトからのいじめに遭っており更に本当の母親が自殺しずっと入院している現状です。どんなに気丈に振舞っていても、心の中で諦めに似た気持ちを抱えていた事は想像に難くありません。そしてそんな自分の胸を内を明らかにしたのは、それこそ空気の読めない変な人である廉太郎でした。彼の踏み込む性格が、強がっていた飾の本当の気持ちを引き出したのです。「一緒に戦おうよ」「今年は楽しい今年にしよう」「はい、ダウト!」、そんな無遠慮な言葉一つ一つこそが飾が本当に欲しかった言葉であり、これが飾を前に進ませる原動力になったのです。
いじめられた経験がある方であれば心当たりがあると思うのですが、いじめっ子を見ると本当に足が竦んで動悸が激しくなって何も出来なくなるんですね。そんな飾が、まさかいじめっ子に自分の手作りクッキーを渡すなんて本当に見違える成果だと思いました。確かに一度は拒否されて捨てられてしまいますが、それでもメゲずにまた手渡しする事が出来ました。そしてお母さんの回復を願ってただ顔を見せるだけではなくカラオケ・漫才・そしてクッキー作りと積極的に動き始めました。そうした行動の傍にはいつも廉太郎がいました。飾は廉太郎の事を「廉太郎の良い所は他人に気を使わないこと」と言ってましたが、とにかく一歩前に進んでみるという事にも確かに意味はあるという事を感じました。
まだ廉太郎と飾の人生はこれからです。いじめも無くなったかどうかは分からず、お母さんもまだまだリハビリの途中です。それでも0ではなく1つでも2つでも前に進んでいる事は間違いないことであり、その積み重ねが奇跡を生むのだと思います。この作品は彼らが一歩を踏み出すまでの物語です。何かを成し遂げるのはむしろここからです。飾がちゃんと前に進んだのですがラ、次は廉太郎がニートを卒業して仕事をするか勉学に励むか動き出す時ですね。きっと怖いと思います。ですけど問題ありませんね。何故なら、すぐ傍に飾という存在が居るのですから。ありがとうございました。