M.M Arpeggio 神奈ルート




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 7 4 65 3〜4 2012/7/12
作品ページ(R-18注意) サークルページ



<テキストの力の入れどころと抜きどころ>

 この「Arpeggio」という作品は同人サークルである「はいぺりよん」で制作されたサウンドノベルです。C81で島サークルを巡回していた時に偶然見つけまして、完成度の高い絵柄と興味を引くあらすじが気になって買ってみました。タイトルからお察しの通り今作は「Arpeggio」という作品の1ルートのみでして、今後完成し次第新たにルートが追加されていく事になると思います。まあこの当たりは同人ゲームの中では割と当たり前ですね。「ひぐらしのなく頃に」に代表されます。感想ですが、なるほどテーマを表現する為にはどこに力を入れてどこの力を抜くかをしっかりと考えて構成することが大事になるという事を思い知らされました。

 この作品ですが、プレイ開始して直ぐにスッと物語の世界に入る事が出来ました。背景は綺麗ですし音楽は場面に合ってましたし、何よりも各キャラクターのパーソナリティがハッキリしていたので掴みはOKでした。ですがあらすじを読めばわかるのですがこの作品はどうやらシリアスな物語のようです。それが分かっていたので、こういった入りやすい前半の何気ない一言一言が大事になるのかなと油断しないようにテキストを読み進めました。そしてそれらしい伏線を分かり易く張ってましたし、そういう意味でも読み進める事は容易かったです。

 ですが、確かに中盤から後半にかけてシリアス部分が顔を出してくるのですが、丁寧に伏線を回収していったのに何故が唐突な印象を受けました。物語の進行としては決して早すぎる訳ではありませんでした。それなのになぜ唐突に感じてしまったのか。私が思うに、シナリオライターのテキストでの力の入れどころと抜きどころのバランスが良くなかったのではないかと思いました。

 確かに後半のシリアス部分を盛り上げる意味での「事実としての伏線」は効果的に演出されていたと思います。ですが、このシリアス部分は登場人物の心理描写が鍵になっているのですが、その心理描写の伏線が足りなかったんです。Arpeggioとは和音を構成する音を下から1つずつ鳴らしていくことを意味しています。そしてこの和音が登場人物の友情であり、1つ1つの音が1人1人の心に当たる訳です。そういう意味でこの物語のテーマはそういった心の部分になるはずなんです。ですが実際のテキストはそういった心の伏線よりも事実の伏線に力が入っていた気がしました。

 まあ最後まで読んでみて後味は悪くなかったですし短いプレイ時間ながら良くまとまっていたと思います。冒頭でも話しましたが背景は綺麗ですし音楽は場面にあってましたしキャラクターのパーソナリティはハッキリしていて掴みは良かったんです。ですが悪く言えばどこか薄っぺらい印象を受けてしまいました。それがきっと心理描写の不足なのかなと思いました。

 まあまだ1ルートのみの評価ですので今後新ルートが出た時にどうなるかですからね。今後新ルートが発売になったら、私は間違いなく買うと思いますからね。それだけ魅力あるキャラクターがたくさんいたという事です。とりあえず粗を探そうと思わず素直に新ルートを楽しみにしておこうと思います。全体の評価は、その時にでも改めて書いてみようと思います。

 あとシステム面でちょっと気になった点がありました。主人公がギターを弾いている設定の為なのか、ウィンドウを消した時に毎回「ジャーン!」というギターの音が鳴るんですが、作品のシリアスな雰囲気にそぐわないと思いました。他にも1日終了するごとに2〜3秒のギターの演奏をはさむのですが、これもロックバンドのような軽快な曲でやはり作品の雰囲気にそぐわないんじゃないかと思いました。これも力の入れどころと抜きどころのバランスが大事だなと思いましたね。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<やはり心理描写の不足がヒロインの印象を悪くしていると思うんです>

 エンディングまでプレイしてみて思ったのですが、やはり登場人物たちは納得しているようでしたけどプレイヤーは多少なりとも置いてけぼりにされたようなシナリオだったのではないでしょうか。絆を誓い合ったと思ったら実は不協和音だった、愛していると思っていたら実は甘えだった、だから全てを無かったことにしてお互いの信念に沿ってお互いの道を歩こう、美談に聞こえますが正直「えっ?」という印象でしたね。

 改めて思えばヒロインである神奈は結構酷いことをしたと思いますよ。最後には「自分は一切の妥協をしない」とかカッコいいことを言ってましたけど、その不協和音で散々4人の輪を乱したわけですし、それに対して自分が悪いわけではないと言っている訳ですからね。まあ各キャラクター達はみな良い奴ですのでそんな神奈の考えを否定しませんけど、プレイヤーの視点で見れば身勝手だと言わざるを得ません。

 ですけど、神奈が身勝手に見えた理由はそういったシナリオの部分だけではないと思うんです。やはり心理描写の不足が原因だと思うんですよ。このシナリオ、4月から1年間の物語ですがかなり途中は飛び飛びであっという間に時が流れています。本来ならその流れている時の分だけの各キャラクターの葛藤や思いがあるはずなんです。それが大事な場面転換の部分だけを「点」でシナリオとして書き下ろして事実のみを追わせているから、ヒロインに対してよい印象を持てなかったんだと思います。言ってしまえばヒロインに対するプレイヤー側の誤解ですね。ですがそんな誤解を解くためにはそれなりの心理描写を表したテキストが必要不可欠なんです。そういう意味で勿体ないとも思いました。

 まああくまでまだ1ルートのみですし、今後配布されるであろう新ルートをプレイすればそういった不足していた心理描写も垣間見れるかもしれませんので是非期待したところですね。実はこれがあえてこういうテキストにして全てのシナリオを終えて心理描写も含めて満足いくような仕様として計算しているとしたら、ひょっとしたら神作になるかも知れませんからね。

 ちなみにあのHシーンにはガッカリしました。あれだけ盛大に自分勝手にふっておいて思い出づくりにHしに来たのかよ、と思っていたらまさかの夢落ちでしたからね。この作品、プラトニックな純愛という要素も重要になってくるはずなのにあのとってつけたようなHシーンは果たして必要だったのでしょうか。いや、ある意味Hシーンを組み込むとしたらああいうやり方しかなかったのかも知れませんね。夢落ちだと分かった瞬間思わず「え〜〜〜!」って声を出してしまいましたよ。そんな作品でした。


→Game Review
→Main