M.M あなたの命の価値 リメイク




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 7 78 3〜4 2019/6/28
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<自分の命の価値を知っていますか?この作品を通して、是非人生を見つめてみては如何でしょうか。>

 この「あなたの命の価値 リメイク」という作品は、同人サークルである「未来色原石」で制作されたビジュアルノベルです。未来色原石さんとの直接の出会いは、COMITIA128にて同人ゲームの島サークルを周っている時でした。実は、未来色原石さんの代表である浦田一香氏の事はTwitterを通して存しておりました。ビジュアルノベルの制作及びレビュー活動を行っており、実直に活動されている様子が印象にありました。COMITIA128に参加されるとのツイートをお見かけし、是非どのようなお方なのかお話してみたい、そして作品をプレイしたいと思い国際展示場に行った事を覚えております。その時に手に取らせて頂いたのが今回レビューしている「あなたの命の価値 リメイク」です。ストレートなタイトル、そして無視できないテーマ、どのような物語が紡がれるのか楽しみにしておりました。

 主人公である岩佐勇気は高校2年生です。勇気は児童養護施設である「キズナの学園」で生活しております。幼い時に両親の虐待に合った勇気、それでも将来は結婚し子供を育てたいという想いを以って日々生活しております。勇気の周りには、妹の岩佐由紀、同じ施設で生活している奥山元やリリィ・ウィルソンや西原佳奈や天田夏美、クラスメイトの井畑沙希や鈴川広司、そして勇気の恩師でありキズナの学園の先生である宇谷智恵理先生と沢山の方がいます。彼らとの生活の中で、勇気は人を愛する事や自分を大切にする事を学び大人になっていくのです。虐待をテーマにした重いシナリオですが、そこから目を背けない事で見える真実が待っております。

 先に言ってしまいますが、この作品のテーマはタイトルが示しております。「あなたの命の価値」、人によっては大げさに思える事柄かも知れませんが、私を含め多くの人が自分の存在意義や社会における役割を考えた事があると思います。自分を巡る人間関係は、誕生し、学校に通い、進学し、就職するとライフステージを経るごとに変化していきます。そのようにライフステージが変化していきますので、例えば学生の時に悩みが無くても就職して思いもよらない悩みにぶつかるかも知れません。逆に、学生時代に辛い経験をしたとしても就職して自分の安心できる場所が見つかるかも知れません。大切なのは自分を信じる事、命の価値を過小評価しない事なのかも知れません。ましてや、この作品に登場する人物の多くは過去に辛い経験をし、今現在も多かれ少なかれ差別を受けております。それでも人生は続いていく、今の状態がずっと続くわけではない、そんな人生観を伝えれくれる作品です。

 最大の魅力は、主人公岩佐勇気を中心とした登場人物の心理描写です。親から虐待を経て自分は絶対にあんな事はしないと決意している勇気、それでも親から愛された経験のない勇気は人を愛するという事を知りません。僕は人を愛せるのだろうか、人を愛せない自分は普通ではないのだろうか、そんな普遍的な悩みを抱えつつも人生を歩んでいく様子が印象的でした。悩みを抱えているのは勇気だけではありません。誰もが自分なりの悩みを抱えて自分の価値を確認しようとしております。そんな繰り返しが人生である、一生解決する事などない、常に考え行動し歩いていかなければいけない、そんな事を登場人物達から教えて頂きました。

 その他の要素としまして、この作品はオープニングとエンディングでボーカル曲が流れます。作詞はもちろん浦田一香氏であり、作品のテーマを直接込めた聴こえやすい歌声と共に作品を彩ってくれます。またBGMもピアノを中心とした雰囲気が場面に合っており、個人的には「LNSM2_BGM22_Serious1」という曲が流れる場面はほぼ全て好きです。全体として音の使い方がお気に入りです。登場人物の描写について、立ち絵の差分は少なめですがだからこそプレイヤーの想像力によって大きく評価が変わると思います。これもまた、この作品のテーマに沿った物でありプレイヤー自身も自分の命の価値を考える切っ掛けになるのかなと思っております。

 プレイ時間は私で3時間15分でした。この作品には選択肢はなく、エンディングも一つのみ用意されております。始めか話終わりまで、主人公岩佐勇気を中心とした人生の物語が描かれております。展開的にはかなり駆け足な印象ですが、様々なライフステージの中でどのような葛藤がありそれを克服していくのかが明確ですのでテンポよく読んでいけると思います。正直明るいテーマではありませんが、この作品を切っ掛けにして一度考えてみては如何でしょうか。虐待を通して見えてくる命の価値、その結末を見届けてあげて下さい。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人生から悩みは絶対に無くならない。常に悩み考える事を続けて、気が付けばこんなところまで来ておりました。>

 始めは学生時代の物語で終わるのかなと思っておりました。ですが実際は、高校を卒業し、就職し、夏美と結婚し優美を授かり、そして優美の結婚式まで描く壮大な物語でした。それぞれのステージの中で自分が受けた虐待の経験、そこに向き合う姿勢が一貫しており筋の通った作品だったと思っております。

 全体を通して感じた事は、人は誰か一人でも信頼できる人がいたら生きていけるという事でした。勇気の両親は確かに勇気に対して酷い行為をしました。ですが、幼い時から共に両親からの虐待を受けており、自分の命の価値が全くない状態でした。そんな2人が出会い共依存のように生活していく中で生まれたのが勇気と由紀、ですが実際は親として愛情を注ぐどころか自分への愛情すら持てておりませんでしたので勇気と由紀に愛情を注ぐ事など出来ませんでした。逮捕され親子が引き剥がされやっと自分の立場を自覚した両親、だからといって過去に行った行為は消えず、また自分達が成長する事も無いのです。ですがそれは不幸な事、誰もが陥るかも知れない事だという事を忘れてはいけません。

 勇気も夏美も、キズナの学園に来る事で自分は一人ではない事を知る事が出来ました。どれだけ迷惑を掛けても受け入れてくれる人がいる、これ程温かい事はありませんね。一番の功労者は智恵理先生だったと思います。彼女もまた、夏美に救われた部分がありました。彼女が奮闘したからこそ、今のキズナの学園があるのです。そうやって誰かを信じて、現状を変えて行くという信念を以って突き進む結果がこの作品のエンディングに繋がったのだと思います。キズナの学園を出てからも何度も智恵理先生に相談しにいった勇気と夏美、もしかしたら、キズナの学園を卒園したのに相談に行く事にもしかしたら引け目を感じた時があったのかも知れません。ですが何も間違った事ではありません。何しろ、キズナの学園は自分達の家であり智恵理先生は家族なのですから。

 個人的に印象的だったのは、クラスメイトである井畑沙希です。沙希は当初、施設の人間を「可哀相」と思っておりました。そして、「可哀相」と思う気持ちに何も疑問も後ろめたさも持っておりませんでした。私、この「可哀相」という言葉が本当に嫌いです。何故なら、他人事だからです。「可哀相」と線を引く事で自分とは違う存在である、自分とは関係ない、そう言っているのです。別に「可哀相」と思う気持ちを否定する訳ではありません。思ったとしても、相手に言うなという事です。「可哀相」とは自分勝手な気持ちの最たる例だと思います。「可哀相」と思う気持ちが無くなれば一番良いですが、そんな事は不可能ですからね。理解出来ない何かに対して、考える事を放棄していませんか?想像力が足りていないのではないですか?そんな風に「可哀相」と口に出す人に言いたい気持ちがあります。

 ちなみに、井畑沙希について印象に残った理由はこの「可哀相」の部分ではありません。私が井畑沙希が印象に残った理由、それは彼女が勇気に対して恋をしていたのにそれが報われないと分かっても酷い態度を取らなかった事です。卒業式の時に、沙希は勇気に「何かあったら助けてあげる」と言いました。それは勇気にとっては他愛のない別れの言葉だったのかも知れません。それでも、沙希にとっては勇気に対して決別する言葉でした。私は勇気とは結ばれない、それでも彼の幸せを願っている。この瞬間、沙希の恋は愛に変わったのかも知れませんね。そして、その井畑沙希の愛は幾年の年月を超えて勇気に帰ってきたのです。児童相談所の職員になった沙希、彼女がプロとして勇気にアドバイスをした場面で「沙希!良かったね!」って思いました。誰も知らな密かな想いが報われて、本当に良かったと思いました。ドラマティックな展開だと思いました。

 幼い時に虐待を受けた勇気、そして同じように虐待を受けた人たちを関わってきた勇気、自分が親となり子育ての中で虐待に触れた勇気、自分を虐待した両親に会いに行った勇気、ライフステージの様々な場面で勇気は虐待に触れてきました。そして、それぞれのライフステージの中で自分の命の価値と大切な人の価値を理解していきました。優美が結婚しても、勇気と夏美の人生は終わりません。まだまだ悩み苦しむ事はあると思います。人生にゴールなんて無いのでしょうね、悩みもずっと続きます、そういうものなんだと思いますね。そんな、虐待を通して人生観を訴えた作品でした。そして、どこかで自分の幸せを見つけられたらと思いました。ありがとうございました。


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