M.M 琥珀のハルモニア
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
5 | 6 | - | 63 | 1〜2 | 2017/2/12 |
作品ページ | サークルページ |
<西洋ファンタジーの世界観を、まったりと優雅に味わいながら2人の行く末を見届けて下さい。>
この「琥珀のハルモニア」という作品は同人サークルである「Pinklover」で制作されたビジュアルノベルです。Pinkloverさんとは直接の出会いはありませんでした。Twitterで私の事をフォローして頂きまして、その後自分のツイートを見て頂いている事に気づきこちらからも色々と調べているうちにフリーゲームを作られている事を知りました。乙女ゲームを中心に非常に多くの作品を作っておられまして、今回は最新作である「琥珀のハルモニア」の方をダウンロードさせて頂きました。ファンタジーという事で私の好物であり、ロマンチックなシナリオが待っているのかなと期待しレビューへと至っております。
Pinkloverの作品はその全てが「ふりーむ」に登録されております。つまり全て無料でプレイ出来るということです。私自身ふりーむの作品はそこまでプレイする事は無いのですが、無料であるにも関わらず作り込みがしっかりしている作品は幾つもプレイした事があります。ですが今回レビューしている「琥珀のハルモニア」もまた雰囲気が綺麗な作品であり、無料で有る無しに関わらずプレイしたくなる魅力がありました。そしてこの作品はダウンロードに加えウェブ上でもプレイできます。是非自分にあったスタイルで触れて頂ければと思います。
主人公であるニーナ・ヴィンティアは流浪の旅を続けている18歳の少女です。パートナーである愛狼のダスクと共に世界中を回っており、メイヘン王国という街にたどり着きました。目的はここで毎年開催されている花祭りを鑑賞すること。それが終わればまた新たな旅へと出立する予定でした。ですがこの街で一人の騎士と出会います。その名はシュレイン・ファドール。裕福そうであり高慢な態度で接してきますかその言葉には芯があり、この出会いが切っ掛けでしばらくこのメイヘン王国へと滞在する事になります。孤高を好むニーナと我を通すシュレインという水と油のような関係であり最悪の出会いでしたが、その後起こる幾つかの事件に関わる中でお互いを知っていくことになるのです。
一番の特徴は西洋ファンタジーらしい雰囲気が伝わる演出と背景です。この作品は章単位で区切られており、切り替わるタイミングでセーブする事ができます。そして次の章へ進むために本のページをめくるのです。これはあくまで演出であり、セーブするのも自由ですし本をめくるといってもクリック1つ行うだけです。それでもこの演出でこの作品がファンタジーであり現実ではない世界の物語である事を実感させます。またプレイ中の背景にたいへんな工夫があり、背景を描写している中央部、現在の時刻を描写している上部、足元を描写している下部と3分割になっております。境目は植物をあしらった模様で区切られており、こういった細かい部分からもファンタジーらしさを感じることが出来ます。
そして人物ですが、水彩画のような柔らかい塗り方が特徴で人物をマイルドに魅せてくれます。特にスチルについては一枚絵という事で力の入ったものであり、場面の状況を感情豊かに表現してくれます。BGMもピアノを中心とした楽曲が多くファンタジーというよりは西洋らしい雰囲気を作ってくれます。個人的には章が切り替わるで流れる落ち着いたピアノの独奏曲が好きですね。プレイヤーに一息つかせてくれます。ですがこの章が切り替わるタイミングの演出は一気にプレイしたい人にとってはやや足止めに感じるかも知れません。何よりもセーブとロードはこのタイミングでしか出来ないのです。ウェブ上でプレイする性質上仕方のない事かも知れませんので、是非世界観を味わうつもりでマッタリをプレイしてみるのが良いです。
プレイ時間的には私で1時間45分掛かりました。この作品には幾つか選択肢が有り、正しい選択肢をしないとTure ENDへたどり着くことが出来ません。そして全てのルートをやり直す事を考えた時、上で書いたロードのタイミングが制約される事が足止めになります。加えて既読スキップもありません。そういう意味で「とりあえず選択肢を総当りするプレイスタイル」はおすすめしません。素直にTrue ENDを目指していくのが良いです。実際True ENDにたどり着けば全てのスチルを見る事が出来ます。それで十分です。そもそもが短めの作品ですので、時間は気にしないで紅茶でも用意して優雅にプレイするのが良いです。不器用な2人の物語、是非最後まで温かい目で見届けてあげて下さい。必ずや得る物があると思います。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<「自分らしさ」を忘れない事、それが相手との心の結び付きに大切なのかなと思いました。>
「生まれや立場や、外側のあらゆる物に、心の結び付きを断ち切れるものは無い」
物語最後に語られたセリフです。平民であり流れ者であるニーナと王国の騎士であり王子であるシュレインは本来では決して結ばれる事のない身分関係。ですがそれでも2人が愛し合っているのであればその気持ちを断ち切る事は出来ない。そんな美しい姿を印象付けてくれるセリフでした。ですが私はこのセリフはそうした身分違いとかそれを非難する周りの人間の事を言っているだけではないと思っております。このセリフには、そもそもニーナとシュレインだからこそ育めた「独特の愛の形」こそ許容せよという精神的な側面が大きいと思うのです。
ニーナのキャラクターは正直珍しいと思いました。女性でありながら一人孤高に生きており、全ての判断を自分の責任で行っております。誰かに恩を着せる事を嫌い、やむを得ず恩を着せる事になったら必ずその恩を返す。忠義に揺ぎ無い性格は女性や男性という事ではなく一人の人間としてかっこ良いものであり、誰でも見習いたいものでした。そしてそれはシュレインも同様でした。騎士としての役割を忠実にこなし、自分の目に入る存在だ誰一人として失わない。無愛想な性格の裏には自分の立場を理解し律する姿が隠されておりました。こちらも男性女性という事ではない人間としてのかっこ良さがありました。
そんな2人ですので私利私欲で行動する事はありませんでした。自分が迷惑であると感じればすぐに街を出て行く、逆にニーナの腕とダスクが国の防衛に役に立つとなれば兵士として採用する。そこに恋愛感情はありませんでした。彼らにあった関わり、それは自分自身が得意とする剣のみでした。思えばニーナとシュレインが初めて仮面を剥がして本心で関わったのは剣の訓練をしている時でした。きっと彼らは出会った時から本当は惹かれていたのだと思います。ですがそんな姿を晒すわけには行かない。だからこそ剣を交える事によって心が素直になり、いつしか離れられない存在になっていったのだと思います。
上で書いた「独特の愛の形」という言葉にはこの「剣の交わりによって育まれる愛」という意味を込めております。身分違いの愛なんて、ある意味使い古されたプロットです。ですがお互いが孤高であり忠義が揺るがない人物であり、その上で剣を交えて育む愛なんて中々見られるものではありません。まるで友情を育むように愛を育むのです。そのような愛の形は間違っているでしょうか?いやいやそもそも間違いの愛なんてものはありませんね。生い立ちや出会いの形は様々、であるならはそこから育まれる愛の形も様々です。彼らにとってそれは剣の交わりだった、ただそれだけだったのだと思います。
「自分のあり方を最後に選ぶのは自分」これも作中で印象的なセリフです。自分らしさというものは人間が生きていく上で一番大切な事。それは周りが非難するものなんかではありませんしそもそも干渉していいものですらありません。身分も立場も違う2人が運命に導かれるように再会しそして結ばれる。そんな姿が見れただけで私たちは幸せなんだと思います。人間どんな切っ掛けで人と出会い人に影響されるかなんて分かりません。ただ、その時その時で自分らしさを忘れないで行動できるかが大切なのかなと思いました。ありがとうございました。