M.M アメイジング・グレイス -What color is your attribute?-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 7 85 17〜20 2019/7/31
作品ページ(R-18注意) ブランドページ
(作品ページと同じ)



<中世的な雰囲気の中で、芸術の何たるやを感じる事が出来る作品でした。>

 この「アメイジング・グレイス -What color is your attribute?-」はアダルトゲームのブランドである「きゃべつそふと」で制作されたビジュアルノベルです。この作品をプレイした切っ掛けは、私が突発的に行っている「私がプレイするタイトルを当てたら好きな作品をプレイさせる事が出来る権利」企画で正解された方からのリクエストです。それでも、昨年末からこの「アメイジング・グレイス」のタイトルは知り合いのエロゲーマーの方々から聴いてはいました。独自の考察を繰り広げたりと、深く嵌っている方もいらっしゃいました。一見普通の美少女ゲームの様相を呈しているがきっとそれだけではない何かがあるのだろう、そんな予感と共にプレイし始めました。

 主人公であるシュウは、雪の降る町で目を覚ましました。その町は中世の西洋を思わせるアンティークな町並みで、間違いなく自分が知っている町とは違ってました。そして、シュウはそれまでの自分の過去を覚えておりません。覚えているのは自分の名前と、この町はどこか自分が知っている常識と違っているという感覚だけでした。それでも、同世代のみんなに助けられ聖アレイア学院に通いこの町の雰囲気に慣れていきました。ですが、そんな細やかな幸せも一瞬で終わってしまうのです。12/25にやってきたアポカリプスと呼ばれる災厄。逃げようにも、町の周りにはオーロラと呼ばれている高い壁がある為逃げる事も出来ません。折角掴んだ幸せを失いたくない、そう強く心に願った瞬間からこの物語は本当のスタートを切るのでした。

 この作品の特徴ですが、プレイを進めていく中でどんどん変わっていくと思います。美しい街並み、可愛らしい女の子、そして芸術を愛する聖アレイア学院の方針、それらは間違いなく現代社会とは違う神を信じ敬う中世社会を思わせます。ですが、途中からその中性社会の雰囲気を持ちつつも違う要素が加わってきます。公式HPをご覧になれば分かりますが、この作品では同じ1ヶ月を繰り返します。しかも、その繰り返しはどうやら唯のファンタジーではない根拠があるようです。そして、12/25に起こるアポカリプスという災厄。これも偶然や自然災害ではなく何か根拠がある出来事のようです。それに気付いた時、このアメイジング・グレイスという作品は唯の非日常的な美少女ゲームではなく謎解きやSFといった様相を見せる事になります。真実はどこにあるのか、それをプレイヤーが探し出そうと始めてからが真骨頂と言えるでしょう。

 それでも、作品全体で表現している芸術という要素は変わる事はありませんでした。芸術とは何なのでしょうか。私は美しい物を追求する事だと思っております。では、美しい物とは何なのでしょうか。きっとこれは生きている人の数だけ存在するのだと思います。ですが、現代社会ならともかく中世社会ではそんな美しさの個性は認められてませんでした。美しい物は神が認めた物です。明確な目標があり、それを目指す事が正しい事だとされております。ですが、現代社会でそんな事を言いだす人はいません。神を至上とする世界から、人間を至上とする世界になってしまったのです。この作品では、そんな美しいものに対する悩みや葛藤で溢れておりました。いくら中世社会のような教育をしても、人々の心を縛る事は出来ないのです。自分が考える美しさはこんなものではない、そう思った時から自分だけの美しさが始まります。是非、何か表現をしている人やしようと思っている人にはプレイして頂きたいです。何かしら、自分なりの答えに辿り着けると思います。

 その他の要素ですが、システム周りは流石2018年度の商業作品だけあってストレスを感じる事はありません。既読スキップも速いですし、何よりもバックログで過去の場面に戻れるのが凄いと思いました。背景は綺麗ですし、キャラクターは表情豊かで可愛いです。そしてBGMはアメイジング・グレイスのタイトル通りキリスト教的な音楽が多数揃っております。ジングルベルやサイレントナイトなど、クリスマスになれば絶対に聞くような曲が町の雰囲気とマッチしており使い方が上手だと思いました。まずはその中世的な雰囲気を堪能し、ヒロイン達との日常を味わって下さい。そして、そこから変わっていく特徴を味わってみて下さい。ともすれば当たり前に感じ始めてきた中世的な雰囲気が、懐かしく思えるかも知れません。

 プレイ時間ですが私で18時間30分程度掛かりました。選択肢は幾つかあり、それによって幾つものエンディングに分岐します。今のフルプライスらしい十分なボリュームであり、満足する事が出来ると思います。私的には、もう18時間30分もプレイしていたんだという感想でした。それだけ物語の謎にのめり込み、真実を探ろうとしていたのだと思います。真のエンディングを迎える時には謎は氷解していました。雪に覆われた町の物語が、雪と共に終わったんだなと感じた瞬間でした。最後までプレイして、きっと芸術に対する何かを感じて頂けると思います。2018年を代表する作品らしい、拘りを感じる内容でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<芸術に答えはない。美しさに決まりはない。それでも、他人に認められなければ芸術にはならないんですね。>

 私も楽器を演奏している芸術家の端くれですので分かるのですが、芸術家って基本的にワガママなんですよね。自分がこれが正しいと思ったら譲らない、納得するまで終わらない、他人の意見なんて耳を貸さない、全ての芸術家に共通だと思います。ですが、これこそが正しい芸術家だと思います。何故なら、芸術は人の数だけ存在するからです。

 ルネサンス時代から続く神を中心とした古典芸術、その美しさは誰もが納得させられるだけの力を持っておりました。だからこそ、そんな古典芸術を続けるべきだという考えが生まれるのは必然でした。グランドツアー計画はそんな古典芸術に魅入られた3人の芸術家の手によってスタートしました。始めはちょっとした社会実験のようなものでした。ですがそれは少しずつ発展していき、グランドツアー計画IIIではついに完全に隔離した町を作る事に成功しました。事実、その町で教育され育った生徒の作品は非常に高値で取引され、古典芸術の再興は成されたのです。

 ですが、それは同時に古典芸術に対する疑問や相対も生み出す事になりました。当然ですね、現実の歴史の中でも古典芸術のみが未来永劫続く事は無く現代美術が台頭しているのですから。リンカやリュウガのような芸術家が生まれる事は必然であり、それを縛り付ける事が結果としてグランドツアー計画IIIの終焉に繋がりました。芸術に対する想いは、一度火が付いたら止める事が出来ません。リンカの作品に触発されたギドウは、その気持ちを消す事が出来なかったのです。ギドウが目指したのはかつて自分が戦慄を覚えた作品であるクローザの失楽園。これを超える作品を作れはリンカを超える事が出来る、そう信じて疑いませんでした。

 そして、ギドウはリンカとクローザの失楽園を超える為の準備を整えました。それがアポカリプスの再来であり、破壊の美学です。これを絵に残す事が出来れば、歴史的な作品になる。そうギドウは疑いませんでした。ですが、ギドウは芸術に対するもう一つ大切な側面を忘れていました。それは他人に認められる事です。美しい作品は、あなたが美しい作品だと思うから美しいのです。言ってしまえば、他人が美しいと認めない作品は美しくないのです。自分がどれだけ美しいと思ってもそれは自分だけ。その自分だけの美しさに、他人は気付かないのです。古典芸術でも現代芸術でも、結局はそれを芸術だと思うのは他人です。誰かが認めてくれなければ、その作品は芸術にならないのです。ギドウが誤ったのはその視点を持たなかった事です。大切なものを犠牲にして大事な人を傷つけて生み出した作品を、誰も美しいと評価しませんでした。

 芸術って、本当に不思議だと思います。芸術に答えなどありません。美しさに決まりなどありません。全ては一人ひとりの感性の問題であり、人の数だけ芸術が存在して良いのです。ですけど、それを芸術と思われるには他人が居ないと達成されない。自分の作品を認めて欲しいと同時に、他人の作品を認めなければいけないのです。この矛盾に、どれだけの芸術家が頭を悩ませたのでしょうか。芸術家の中には、死して後に評価された人も沢山います。その芸術家は、生きている時に幸せだったのでしょうか。ずっと、自分の作品が何故認められないんだと葛藤していたのではないでしょうか。世の中が認められなければ自分が信じたものに突き進むしかない、それこそギドウの様に全てを犠牲にしても自分の信じた芸術を達成する、そんな芸術家も沢山いたと思います。ですが、私たちはそんな芸術家の作品の多くを、知る事が出来ないのです。

 この作品は、シュウの記憶喪失から始まり町の不思議を探る物語でした。アポカリプスを止めるために時を超えていく中で様々な思惑が発掘され、そしてシュウは大切な人を見つけていきました。表向きは時すら超えるSFの世界で、最終的にヒロインと結ばれるボーイミーツガールです。ですがその中で、確かに芸術に対する一つの答えが示されました。私はこれを表現したいが為のアメイジング・グレイスだったと思っております。美少女ゲームもまた一つの芸術ですからね。この作品にのめり込む人が一人でもいれば、アメイジング・グレイスはその瞬間芸術になったのだと思います。あなたにとっての芸術とは何でしょうか?美しさとはどんなものでしょうか?それに対する答えが見つかったら、それはとても幸せな事だと思いました。そして、いつかその美しさが他人に伝わったら良いですね。そんな事を思いました。ありがとうございました。


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