M.M 雨雲




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 4 - 77 1〜2 2015/9/27
作品ページ サークルページ



<センスのある演出はプレイヤーの目を離さず、徐々に明かされていく真実はプレイヤーの心を離しませんね。>

 この「雨雲」は同人サークルである「ちゃんとする」で制作されたビジュアルノベルです。ちゃんとするさんを知った切っ掛けになったのは、コミケの時によくお話をする同人ゲームを見せ合う会に参加した時でした。その時話題に上がったのが今回レビューしている「雨雲」です。オススメされたので個人的なメモに記録はしていたのですが、いい加減やらないとなと思い今回プレイさせて頂きました。感想ですが、センスにあふれた演出とノベルゲームらしいシステム、そしてプレイを進めることに繋がっているシナリオに終始ワクワクしながらプレイ出来ました。

 この作品は幾つかの章立てに分かれております。それぞれで登場人物が代わり、それぞれの世界で登場人物たちが自分の生活を送っております。ですが、全ての章に共通点がありました。それは謎の失踪事件が起こるということです。犯人が分からないその事件はバラバラの時間軸で起こっているのですが、クライマックスが近づくにつれてそれぞれのピースが埋まっていき結末へ向かっていきます。失踪事件の真相は何なのか。そして犯人は誰なのか。是非プレイヤー一人一人が事件を解決する意気込みを持って読み進めていって欲しいですね。

 この作品の魅力は何と言っても演出です。失踪事件という事でどこかホラーな雰囲気を感じさせますが、まさにその通りで随所に鳥肌を立たせるような演出を用意しております。いわゆる「リング」や「呪怨」の様な、静かでありながら逃げ道を塞がれ為すすべもなく殺されるような怖さを味わう事でしょう。その演出は時に静的であり時に動的です。その緩急がプレイヤーを緊張させっぱなしにさせてくれます。おかげ様で画面から目が離せませんでした。目を離さないでいるうちに最後までプレイしてしまいました。久しぶりにのめり込みましたね。まさにノベルゲームだからこそなし得た作品だと思っております。

 そしてこの作品は後半に謎を解く考察パートが用意しております。ここでこれまでプレイしてきて集めた情報や気になった伏線を解消していくのです。それは単純に選択肢を選ぶだけではなく、時に写真から気になるとこを選択したり直接キーワードを直打ちしたりと多種多様です。まるで本当に操作をしているかのような臨場感です。ここをスムーズに突破する意味も込めて、是非大切だと思った事はメモをとりながらプレイして頂けると多少楽になるのかなと思います。何れにしても、漠然と読むだけでは終わらない面白さを約束します。

 プレイ時間は私で1時間40分程度掛かりました。途中幾つか選択肢があり、間違うとあっという間にBAD ENDに行ってしまいます。是非こまめにセーブしながらプレイすると良いと思います。また上でも書きましたがこの作品の魅力はそのセンスある演出ですので、時間のある人であればオートモードにして映画を見るかのようにプレイするのも一興かも知れません。オートモードにして眺めながら気になった点をメモ帳などに記載する。まさに捜査官のようなプレイスタイルですね。是非最後まで物語を見届けて頂き、雨雲というタイトルの本質を掴んで頂ければと思います。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<半田さゆは、奪った命を悔やみながら最後まで雨雲の下で自分の事を攻め続ければ良いのですよ。>

「自分が自分を認めてあげて、幸せだとか、普通だとか思わないと、幸せになんてなれない」

 常に兄と比較され自分の存在価値を認めてもらえなかった半田さゆ。そんな彼女にとって、世の中の全ての人は輝いて見えたんですね。自分の存在には何も価値はない。自分が価値を持つには輝いている人の真似をするしかない。そうやって仮面を被り続けてきました。でもその仮面は所詮他人の借り物。仮面を被っている自分が変わらない限り、決して本当に求める自分にはなれなかったんでしょうね。

 という訳で半田さゆの歪んだ欲望が生み出した一連の事件の物語でした。彼女の幸せに対する渇望の強さが、事件を長期化させておりました。改めて振り返れば、確かに序章と第一章で北崎シオリの顔が変わっておりました。始めは同じ名前に騙されて全く気付きませんでした。先入観って恐ろしいですね。観察力のある人であればここで「あれっ?」って気付くんでしょうね。他にも第三章始めに登場した半田さゆの外見は確かに第一章の舞沢芽衣でした。これは割と直ぐに気づきましたが、全ての章が繋がっているという見事な演出でした。この作品、全てを分かった上でもう一度始めからプレイすると新しい発見があるかも知れませんね。いわゆる解答編というやつですね。

 後は登場人物の等身大なキャラクターに好感が持てました。個人的には第一章の児島零時が好きなんですよね。大学卒業後ニート期間を経てバイトをしているいわゆる「落ちこぼれ」な人物です。ですがそんな児島ですが最後までまっとうである事にこだわり続け、腐ることなく就活をしながら先輩らしく振舞ってました。内定がとれてロッカー室で喜びをかみしめている姿、本当にホッとしました。彼のようにどんな状況であってもそれを変えようと頑張っている人は基本的に好きです。生き生きとしてますからね。そして彼は本質的に物語に関わらない人物。そんな彼の視点だからこそ第一章では半田さゆの影も形も現れなかったんですね。そんな人物一人一人にキャラクター性を持たせ物語の中で生きた存在として動かすシナリオ、作品に対する愛を感じました。

 後は後半の考察パートは面白かったですね。私は普段の癖で固有名詞や気になった言葉は全てメモを取るようにしておりますので、初見でパーフェクトを取ることができました。まさかあの占いの内容も選択肢に絡んでくるとは思いませんでしたね。オレンジはラッキーカラー、本当にそうでしたね!そしてメモを取らない人が殆どだとは思いますが、そんな人でも解けるように救済措置を幾つも用意している点も素晴らしいと思いました。赤井刑事のヒントやメモを何度も見れるところですね。正直、丸腰で「隣の部屋」は当てれないでしょう。それでも「となりの…」とヒントを出してくれました。これで当てずっぽうでも打ち込めば当たった人は多かったのではないでしょうか。

 最後に雨雲というタイトルについて書こうと思います。これはもう言うまでもありません。半田さゆの心のあり方ですね。常に自分に自信を持てず劣等感の塊な彼女、そんな彼女が晴れ渡る気持ちを持てるはずがありませんからね。上でも書きましたが、憧れの人の仮面を被ってもそれは自分自身ではありません。雨具もような暗い雰囲気は隠しきれないのです。そしてその事に半田さゆも気づいてました。だから何度も仮面を変え姿を変えてきたのです。ですがそれももう限界。他人に幸せを求めることの虚しさを知り、ついに彼女は絶命してしまいました。最後まで彼女に救いはありませんでしたね。ついに彼女の雨雲は晴れることはありませんでした。ですがそれは因果。自分の身勝手な考えて他人の命を奪っておいて、今更普通の生活に戻れるはずがありませんからね。残酷かもしれませんが、半田さゆは奪った命を悔やみながら最後まで雨雲の下で自分の事を攻め続ければ良いのですよ。

 という訳で非常に見所満載の作品でした。2時間弱のプレイ時間でしたが様々なエッセンスが入っておりどなたでも楽しめそうな内容でした。ホラーに恐怖するのもよし、半田さゆの行動に恐怖するのもよし、登場人物たちの細かな表情差分を楽しむのもよし、考察パートで熟考するのもよし、是非皆さん一人一人の雨雲を感じて頂けたらと思います。まさにノベルゲームと呼べる作品だったと思います。この完成度でフリーというのもまた恐ろしいですね!是非今後の活動に期待したいです。ありがとうございました。


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