M.M 深夜1時の交換手
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
8 | 7 | - | 82 | 4〜5 | 2025/1/17 |
作品ページ | サークルページ |
<実際にスマホから電話を掛ける事で、様々な人の想いに触れ後悔を晴らしてあげて下さい。>
この「深夜1時の交換手」は、同人サークルである「ツノウサギの家」で制作されたビジュアルノベルです。ツノウサギの家さんの作品をプレイするのは本作が初めてになります。プレイした切っ掛けは、C105で同人ゲームの島サークルを回っている時でした。私は即売会では基本的に完成している作品があれば出来る限り手に取ります。その為毎回沢山の作品を手に取らせて頂き嬉しいのと同時に、事前に気付かなかった出会いがあるのもまた楽しいです。今回レビューしている「深夜1時の交換手」も、そんな即売会で初めてお目に掛かり手に取る事が出来た作品の1つでした。黒を基調としたパッケージに赤字で書かれたタイトルロゴ、そしてよく見るとジャケットには血を流している女性が映っております。背表紙には「誰かが後悔したお話」とあり、ミステリー・ホラー・サスペンスといった単語が頭に出てきました。是非とも真相を確かめたいと思い、プレイし始めました。
「深夜1時の交換手」とは”深夜1時に「001」に電話をかけると「深夜1時の交換手」に繋がり、過去に電話を繋げてくれるという都市伝説”の事をさします。いつからこの都市伝説が生まれたのかは分かりませんが、口伝えに噂は広まり何となく誰もが知っているものとなっていました。主人公であるアサヒもまた、深夜1時の交換手の都市伝説を耳にすることになります。ある願いを持っていたアサヒは、意を決して深夜1時に「001」へ電話をするのです。すると、とある女性に繋がりました。彼女こそ深夜1時の交換手の本人そのもの。そして彼女は、本当に過去に電話を繋ぐ能力を持っていたのです。願いを叶えたいアサヒは、ここから深夜1時の交換手の力を借りながら様々な人に電話を掛け、そして様々な物語に触れていくのです。
この作品は「ミステリーアドベンチャー」となっております。プレイヤーであるあなたは、主人公アサヒとなり実際にスマホから様々な番号に電話を掛けていきます。対象の電話番号は「001」〜「099」となっております。常識的に考えれば、突然知らない番号に電話を掛けるなど迷惑行為です。ですが、今は深夜1時です。この時間に電話に出られる人は、大体この都市伝説を知っているものです。そして、電話の先の人一人ひとりに物語があり、何かしらの後悔が待っております。そして、深夜1時の交換手は過去に電話を繋いでくれます。もし電話先の人の後悔が過去にアドバイスする事で解消出来るのであれば、もしかしたらその後悔を取り除く事が出来るかも知れません。さあ、まずは電話をしてみる事です。そして電話先の人たちの言葉に耳を傾けてみる事です。その繰り返しで、あなたはきっと何かしらの真実に気づき後悔を解決出来るかも知れません。
最大の特徴は、本当に電話を掛けて様々な人と会話をしていくシステム周りです。画面の中央に深夜1時の交換手、右側にスマホが配置されている画面構成であり、直接スマホの番号をクリックする事で電話していきます。コール音などもリアルであり、直接電話している感覚そのままです。そして、電話した履歴はちゃんとスマホに残り会話の内容も確認する事が出来ます。何しろ有効な電話番号は「001」〜「099」ですからね。とても全てを覚える事は不可能ですし、メモを取るのも大変です。是非スマホの履歴を参考にしながら、様々な人たちの声を聴き問題を解決していってください。そして、過去に電話をするという事が時間に干渉するという事です。当然、現実世界にも変化が生じます。つまり、同じ電話相手でも過去に電話をする事で現代の環境が変わり会話が変わるという事です。この辺りの変化もまたタイムリーに更新され頭を使わせてくれます。ミステリーアドベンチャーらしさ満載ですので、そんな仕込みの細かさも堪能してください。
その他の要素として、Unityで製作されている為か非アクティブ時はBGMが流れません。この作品は基本的にやや暗めの同じBGMがずっと流れっぱなしになっており、ターニングポイントになる場面で若干変化する程度です。ですがだからこそBGMの変化はプレイヤーにとって衝撃があり、良い演出となっております。私はPC上でメモを取りながらプレイする関係で、そのBGMがブツ切りになってしまうのでそれが残念でした。また、バックログがありません。始めは不便だと思いましたが、よくよく考えれば実際に電話をして直ぐに直前の会話を振り返ることなど出来ませんね。もしかしたら敢えてバックログ機能を付けなかったのかなと肯定的に捉える事にします。そして、目の前に居続ける「深夜1時の交換手」はLive2Dなのかずっとぬるぬる動いております。また会話をすると口元が動き、特定のフレーズには声もあります。長時間一緒に居続けますので、愛着が持てやすいのは良い事です。
プレイ時間は私で4時間10分くらいでした。上記のとおり、スマホを使って様々な番号に電話を掛けていきますので選択肢とか分岐といった概念はあまり存在しません。鍵になる情報を手に入れたら、勝手に主人公アサヒが考えてプレイヤーに道しるべを出してくれます。一見膨大でキリがない様に思えますが、とりあえず順番に電話していけば何となく雰囲気が分かりこの作品が狙いとしている事が伝わると思います。そして、この作品のテーマに「後悔」があります。この後悔とは、誰の後悔でしょうか?そして、その後悔は晴らすことが出来るのでしょうか?是非諦めず最後まで電話を掛け続け、真相にたどり着いて下さい。何かしら、皆さんの心に残るものがあると思います。素敵な作品をありがとうございました。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<もしかしたら、手遅れの過去はあっても手遅れの後悔は無いのかも知れないですね。>
プレイを進めて行く中で、7年前に大災害があり多くの人が不幸になった事に気づきました。そしてその不幸は様々な形で人の心に影響を残し、後悔の連鎖が続いていきました。それを、一つ一つ解していき最後に朝陽が叶えたかった願いを叶える事が出来たのが本当に良かったです。
もし本当に過去に連絡する事が出来るとしたら、きっと誰もが縋りたくなると思います。恐らく、一つも後悔のない人生を歩んでいる人はいないと思います。何故なら、人は必ず失敗するからです。そして失敗よりは成功を求めるからです。ですが、実際に過去に連絡する事は現代では不可能の様です。だから私たち人が出来る事は、後悔を心に刻んでそれを未来に活かす事だけだと思います。同じ失敗は繰り返さない、もう辛い想いはしたくない、その決心を幾つも抱えながら人は年齢を重ねていくのだと思います。ですけど、仮にその後悔が自分ではどうしようもない事が原因だったらどうするのでしょうか?それこそ、地震や豪雨といった自然災害だったら?突然信号無視してきた車がぶつかってきたら?私、流石にこういった自分ではどうしようもない不幸な出来事や後悔は過去を変えてでも何とかしてあげたいって思ってしまいますね。
この作品の中でも、何人もの人が後悔を抱えておりました。行方不明の娘の事が頭の中にチラついて前方不注意で人を引いてしまったお父さん、いじめに加担していたことに後ろめたさを感じつつも謝る事が出来なかった友達、家族に迷惑を掛けたくないと良かれと思ってニラに似た植物を採取し手料理を振舞った少女、みんな悪気など無くタイミングが悪いことで不幸な出来事を引き起こしてしまいました。ちょっと落ち着いていれば、素直になる勇気があれば、ごめんなさいと謝る事が出来れば、そんな小さな選択が出来なかった後悔は、ずっと彼ら彼女らの心に残る事になりました。願わくば、過去の自分にアドバイスしたいと思うのは自然だと思います。朝陽は、そんな彼ら彼女らの言葉を聴き行動を起こしました。時にはストレートに、時には諭すように、不幸な出来事を繰り返さない様に語りかけました。結果、多くの人たちは後悔する事無く幸せな生活を送る事が出来るようになってました。
そして、誰かに親切にしてもらった人はそのお礼をしたいと思うものです。過去を変えた事で不幸な出来事を回避出来た彼ら彼女らは、今度は朝陽に対して悩みがないかを尋ねるようになりました。そして、自分の知っている範囲で情報を提供し朝陽が求めている真実に向かって背中を押してくれました。そんな人の想いの連鎖が少しずつ電話が出来る範囲を拡大し、また過去に電話できるようになる幅も拡大されていきました。そして、朝陽が最後に謝りたいと思っていた最愛の恋人である東深夜にようやく届いたのです。この作品全体を通して始めから幾つか謎が提示されていました。「深夜1時の交換手」は何者なのか?朝陽の願いは何か?7年前に何が起こったのか?これら大きな謎が頭の隅に残りつつ、個別の後悔を解決していく事で真相に近づいていくシナリオ展開は本当に楽しかったです。最後、やっと「100」に電話を掛けて繋がった時はやり切った感でいっぱいでしたね。
しかし、朝陽は東深夜を助ける事は出来ませんでした。7年前の大災害に巻き込まれた東深夜、それでも人の為に行動し続けた彼女にとって自分の命など惜しくはなかったのかも知れませんね。ですが、1つ後悔がありました。それは恋人の朝陽とケンカ別れ状態のままという事です。一言会話したい、そして謝りたい、そんなささやかな願いを長い時間をかけて叶える事が出来たのです。作中でも「手遅れの過去」と言ってましたが、恐らく東深夜は助からない運命だったのだと思います。これまで沢山の人の死を救ってきた朝陽にとって、肝心の東深夜の命を救えなかったのは忸怩たる思いがあると思います。それでも、最後謝るという奇跡は起こす事が出来ました。本当は、これだけでもあり得ない事です。スタッフロールが流れる中で交わされる2人の会話、これだけで「良かったね」と思いましたし少しウルっとしてしまいました。
物語最後、再び「001」に電話しましたがもうこの番号に応答する人はいません。「深夜1時の交換手」は、本当に都市伝説の存在になってしまいました。ですけど、それで良かったんですね。それは、きっと東深夜の後悔が無くなった証拠なのですから。手遅れの過去はきっとあるのでしょうけど、手遅れの後悔はもしかしたら無いのかも知れないですね。朝陽は最愛の人を失いました。ですがそれ以上に沢山の人を救いました。こんな正義感があり心優しい朝陽ならば、きっと自分の足で自分の人生を歩く事が出来ると思います。数々の電話番号にダイヤルしまた彼ら彼女らの過去にまで干渉し後悔を解決していく壮大なスケールの本作の最後は、大好きな人に謝りたいというささやかな願いを叶える物でした。改めまして、素敵な物語をありがとうございました。