M.M Also Sprach
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
5 | 6 | - | 68 | 3〜4 | 2020/5/19 |
作品ページ(なし) | サークルページ |
<場面転換が非常に多く、またテキストに誤字脱字が多い為読むのに体力が必要かも知れません。>
この「Also Sprach」は同人サークルである「Re:Journey」で制作されたビジュアルノベルです。Re:Journeyさんの作品は、過去に「明日の朝食は一緒に」をプレイさせて頂きました。初めてサークルさんに出会ったのはC97の時なのですが、この時の新作である「明日の朝食は一緒に」以外にも幾つか旧作も頒布しておりました。そのどれもがトールケースの目を惹くパッケージでして、この機会に旧作も全て手に取らせて頂きました。そんな旧作の1つが今回レビューしている「Also Sprach」になります。どこか西洋を思わせる建物の中で、意味深な目線を向ける対称的な2人の女の子です。これだけでどんな物語が待っているのか想像力が掻き立てられます。あらすじを見ますと、日常と非日常が交錯する物語が待っているみたいです。その境目はどこにあるのかを見極めながら読んでみようと思い、今回のレビューに至っております。
主人公である来栖要は18歳の高校生です。見た目はどこにでもいる普通の学生ですが、少し内向的な性格の様です。それでも、クラスメイトである高橋や坂口といった友達に囲まれ、それなりの学生生活を送っておりました。ですが世の中どこにもどうしようもない奴はいまして、中上という不良に裏で絡まれておりました。殴る蹴るなどの暴行や、掃除を丸投げされるなどのいじめを受けてました。この日も、中上に部室を掃除しろと命令されて仕方が無くそれに従ってました。夜遅くなり帰ろうと思った時、グラウンドでこの世のものとは思えない人物がいました。まるで忍者の様な男と、まるで西洋時代の騎士のような男、そしてそんな2人の男を圧倒する強さを持つ赤紙の女の子でした。無性にその女の子に惹かれた要は、彼女の軌跡を求めて行動を始めます。そしてこれが、日常から非日常へ迷い込む入り口となるのです。
全体を通して、場面がコロコロとよく変わっていきます。昼は学校での普通の学生生活でしたが、夜になって謎の組織との戦いが顔を出してきます。そして女の子を求めて行動していく中で、場所は住宅地から繁華街、そして路地裏から謎の広場などどんどん移動していきます。登場人物も、パッケージに描かれている2人の女の子を中心に老若男女、もっと言えば人間以外の存在も登場していきます。専門用語も沢山飛び交いますので、何となく読んでいると気付かないうちに置いてけぼりを喰らってしまうかも知れません。分からない言葉はメモを取っておくとか、そんな工夫も必要とあらば行った方が良いかも知れません。私はビジュアルノベルを読むときは物語の着地点を想像しながら読むのですが、この作品は難しかったですね。道なき道を進んでいく感覚でしたので、疲れたら直ぐに休憩を取って地道に進めていきましょう。
テキストにかなり気になる点がありました。この作品、かなり誤字脱字が多いです。人物の名前が明らかに間違っていたり、会話の主語が逆転していたり、ひらがなとカタカナがゴッチャになっていたりと結構な頻度でした。あまり校正する時間が無かったのでしょうか?文脈で分かったので大丈夫だったのですが、ちょっとこれまでプレイして来た作品と比較してもかなり間違いが多かったです。どこかの機会で是非校正をお願いしたいと思いました。演出は拘りを感じました。特にOPですが、ムービーを用いて一気に作品に引き込んでくれました。何か壮大なものが待っているに違いないと確信させてくれました。他にも、バトルシーンではエフェクトが度々登場し、これだけで誰が戦っているのか分かりました。BGMはあまり使われてなかったですね。無音の時間が結構ありました。効果音も一般的でした。
プレイ時間は私で3時間15分掛かりました。選択肢があり、それによってエンディングが変わっていきます。上でも書きましたが、場面転換が激しいので思ったよりも読むのに体力を使います。私は30分に一回のペースで休憩を挟みながら読み進めました。その間に人物関係や場面を整理しリスタートするという感じでしたね。パッケージに描かれている非日常的な雰囲気にたどり着くまでが一つの目安かも知れません。そこから加速度的に物語が進んでいきますので、そこまでまずは読んで頂ければと思います。なんにせよ、テキストですね。流石にちょっと読み難いので、是非校正して頂きたいと思います。自分のペースで、少しずつ咀嚼しながら進めて頂ければと思います。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
<正直言って、私はこの主人公の事が好きになれませんでした。納得の扱いだと思っております。>
正直言いまして、私この主人公の事は好きになれませんでした。始めは中上とかにいじめられて不憫だなと思ってましたが、その後マドを追う場面とか全然緊張感と言いますか危機管理意識が無いんですもの。しかも、周りの人が説得しても全部自分の都合の良い解釈をして、そんな態度だからいじめられるんだなと思ってしまいました。これだけお膳立てされて持ち上げられている主人公も珍しいなと思いました。
物語が進んでいくにつれて、どんどん設定が追加されていきました。この世界には英霊と呼ばれる存在がいるみたいです。そしてその英霊を政府主導で処理する組織があり、また組織とは別に野良で処理する集団もいるみたいです。そして英霊はヘリオガバルスという存在の一部であり、最終目標はこのヘリオガバルスを処理する事みたいです。この流れを、幾つもの小競り合いや主人公の行動の中で明らかにしていきました。そして気が付けばヘリオガバルスは退治され、それで物語が終わっておりました。確かにプレイ時間は長かったですが、場面を追うだけで結局のところこの作品は何を伝えたかったのかが見えにくかったなと思っております。主人公の成長かと思えばそうでもありませんし、何か非日常的な世界を描きたかったのでしょうか。そういう意味では狙いは成功なのだと思いますね。
私の解釈ですが、この作品は小宮託司という存在がナレーターと言いますか神の視点を持っており、プレイヤーに語っているのかなと思いました。あの上から目線の語り口は、冒頭の演出や一番最後のエンディングと共通でしたからね。要も、マドも、切慧も、全部役者。その役者をどんな風に誘導できるかが小宮託司の楽しみだったのかなと思っております。しかし、役者なのかも知れませんが意思を持った役者でした。誰もが小宮託司の言った通りに動きませんでした。完全に蚊帳の外扱いでしたからね。何となく、この小宮託司という存在は何か違うと察したのだと思います。役者たちが生きようが死のうがどうでも良いんですね。何故なら彼らは役者だから。この物語の結論がそんなものであっても、それが結論なんだと外野から思うだけですから。そんなメタ的要素もあったのかなと振り返っております。
そしてそんな小宮託司によって語られたエンディング、本当主人公の扱いはこれで良いのかって思ってしまいました。冒頭書きましたけど、私はこの主人公は好きになれません。いじめられているだけでもマイナスイメージですが、その後の危機感の無さと信頼関係の無さがどんどん明らかになっていって魅力を失っていきました。折角切慧が忠告しているのにそれを煩わしいとばかりにマドに執着したり、かと思えば切慧が自分にとって役に立つと思ったとたんに手のひら返しのようにお礼を言ったり、何といいますか本当自分本位なんだなと透けて見えてしまいました。実は政府の実験に使われていた過去を持っておりましたが、それを差し引いても要は何も力のない一般人ですからね。他人の迷惑とか、考える素振りくらい見せないのかと思ってしまいました。これはテキストの話ですが、思い返せばテキストの半分は要の心の声だった気がします。時々誤字なのか不自然に「」があって声に出ているのか出ていないのか判断に困る部分もありましたが、あれは無意識に声に出していたとしても不思議ではないですね。この作品における一番の役者だったんじゃないかと思っております。
何れにしても、ちょっと登場人物に魅力を感じないと言いますかどんどん増えたり減ったりしますので地に足がつかない感じでした。エンディングを見ても「あー終わったんだな」という印象でした。かなり設定に拘りがあり登場人物も多かっただけに、勿体なかったなと思いました。この作品は、何らかのタイミングでリメイクして欲しいなと切に思っております。まずは誤字脱字ですね。そしてもっと主人公以外のキャラクターを掘り下げても良いと思いました。特にメインヒロインの2人ですね。過去の政府の実験内容とか、もっと知りたいと思いました。粗削りでしたがどこか期待を込めさせてくれる、そんな作品だったと思います。ありがとうございました。