M.M アリスさんこれなんですか?




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 9 6 76 3〜4 2016/12/1
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<紅茶街の甘く柔らかな雰囲気が丁寧な背景とメルヘン・ゴシックなBGMで表現された心温まる作品です。>

 この「アリスさんこれなんですか?」は同人サークルである「studioハイライト」で制作されたビジュアルノベルです。studioハイライトさんの作品はこれまでプレイした事はなく、C90で同人ノベルゲームサークルのエリアを回っている時に手に取らせて頂きました。C90ではstudioハイライトさんとintegralさんがコラボ企画を行っており、integralさんの作品は過去に何本かプレイさせて頂いたという事で調度手に取る事が出来ました。クリンとしたつぶらな瞳がとても可愛らしい女の子の絵柄だけでほのぼのとした雰囲気が伝わってきます。あまり頭を使わず雰囲気を楽しむつもりでプレイしてみました。

 主人公である有栖川愛生(ありすがわあおい)は自他ともに認める美少女であり、成績優秀で運動神経抜群とまさに非の打ち所のない最強体質なキャラクターです。ですが誰にも言えない重大な秘密がありました。実は愛生は美少女ではなく男の娘だったのです。愛生には姉がおりました。ですがこの姉、最強体質な愛生でも決して逆らう事の出来ない最強の存在であり愛生が最強体質になったはこの姉の理不尽な命令にしぶしぶ従っていた結果でした。そしてそんな姉の命令で女学園に通っていたのですが、これまた姉の命令で卒業させられ気が付けば摩訶不思議な街である紅茶街(アッサムシティ)へとたどり着いてしまいました。いったい姉は何が目的で愛生を紅茶街へと連れて行ったのでしょうか。そしてこの現実世界とは時間の流れが違うような紅茶街で、愛生にどのような出会いがあるのでしょうか。まるで砂糖菓子のような甘くほのぼのとした物語が幕を開けるのです。

 最大の魅力はとにかく甘く柔らかい西洋の街並みをイメージさせる紅茶街の雰囲気と、とても可愛らしい主人公愛生とそのヒロイン達です。この作品はいわゆるドタバタラブコメでして、ただひたすら可愛いキャラクター同士の掛け合いを楽しむのが良いのですがそれ以上に世界感なども一緒に堪能して欲しいです。背景は全てオリジナルでして、愛生が居候するファンシーショップ「メアリアン」の背景にはこれでもかと書き込まれた可愛らしい人形や玩具が書き込まれております。また街並みもメルヘン溢れる西洋の雰囲気たっぷりです。他にも野に咲く花や草むらの風景など、その全てが紅茶街という世界を作り出しており大変居心地の良さをを感じます。

 特に注目するべきはBGMです。緊張感のある場面の曲やギャグ場面での曲など用途は様々ですが、西洋な街並みという事でメルヘンやゴシックといったジャンルで統一されております。例えば軽いハイハットだけのパーカッションとピアノの組み合わせは喫茶店で聞くに調度良い雰囲気であり、紅茶街の名前らしく温かい飲み物を飲んで一息つきたくなります。個人的に一番のお気に入りは「Lost Place」という曲ですね、緊張感のある場面で流れる曲なのですが、シロフォンをメインとしたメロディはコロコロと転がるようで耳によく響き、その後を追うように流れるヴァイオリンとフルートの優雅な演奏が雰囲気を盛り上げます。正直この曲の為にBGMに9点を付けたと言っても言い過ぎではありません。全体として紅茶街の雰囲気を作り出すために用意された曲ばかりで、まさにBGMの力を示してくれております。

 後はそんな美しい背景と雰囲気たっぷりのBGMの中でひたすら登場人物たちの掛け合いを楽しんで下さい。愛生は最強体質の男の娘でありこの作品の中で一番可愛い設定です。そしてヒロインであるなな様と店長は共にロリロリでありしかも巨乳です。ですが性格は全然違いますのでまずは会話のテンポに慣れて性格を掴んで欲しいですね。他にも準ヒロインである小鳥遊姉妹やネタキャラであるパットマンも良い立ち位置で場を盛り上げてくれます。攻略対象は2人ですが全員が揃って会話しているシーンこそ一番愛おしく思います。あまり深く考えずただただ心の向くままに作品の雰囲気と登場人物たちの掛け合いを堪能して下さい。

 プレイ時間は私で約3時間15分程度掛かりました。共通ルートで1時間30分程度で、個別ルートでそれぞれ45分の2ルート分という感じですね。ボリューム的にも決して長くはなく一日あればあっという間に終わってしまいます。個人的にはもっともっと紅茶街の中にいたかったですね。それだけ甘くほのぼのとした内容です。パッケージ通りの内容ですので目に止まったり気に入った人であれば間違いなく満足する内容だと思います。是非紅茶やコーヒーの準備をして頂き心を落ち着けてプレイしてみてください。素敵な雰囲気の作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<紅茶街の甘く穏やかな世界が、愛生に人との繋がりの大切さを教えてくれました。>

 最後の最後まで甘い雰囲気を楽しませて頂きました。ちょっと抜けた登場人物達と面倒くさい主人公の掛け合いは焦れったくもほっこりとするものであり、最後お互いに素直になった様子にとても安心しました。この作品は、人間不信だった愛生が大切な人との絆を見つけるまでの物語だったのかなと思っております。

 暴君な姉の監修のもと最強体質になってしまった愛生、そんな愛生の姿は周りの人にとっては眩しすぎるものであり自分自身の影の部分と言いますか目をそらしたくなる部分を否応なく曝け出すものでした。もちろんその事自体は愛生が悪い訳ではなく、むしろ周りが勝手に嫉妬しただけの話です。ですがそんな出来事が続いてしまった為に愛生は自然と自分しか信じられなくなっていったんですね。勉強もできて運動神経も抜群で、品行方正で超美少女で更に料理もできる愛生はもはや誰かの力を借りる必要すらありませんでした。きっとあのまま学園にいても当たり前のように卒業し社会に出てもそつなくこなしていくのでしょう。

 ですがそんな愛生の未来に危機感を持ったのが姉であるひまわりでした。このままでは愛生は人と触れ合うことの大切さを失ったまま大人になってしまう、その事を危惧して時間の流れが違う紅茶街へ強制的に移動させたのだと思います。紅茶街は外界と完全に切り離された世界です。そこに住む人たちには予め役割が与えられており、その役割をこなしていればそれで充分生きていけるのです。つまり競争がないんですね。現代社会の様に成績で上下がつくわけでもなく会社での昇進がある訳でもありません。なんという温い世界。ですが、そんな温い世界が許される現実があったとしたら、誰もがそんな世界へと行きたいと志願すると思います。

 紅茶街には時間の概念がありません。雨も振りません。きっと一年中穏やかな気候であり変化がないのだと思います。何かに怯えることもなくただ自分に与えられたことだけをやればいい。まさに甘いほのぼのとした世界です。そしてそんな世界の住人は実に優しく協調性に溢れておりました。ヒーローが手助けをすればありがとうとお礼を言い、アルバイトが仕事をすれば一緒にご飯を食べていきます。明確な損得がありません。それはずっと周りとの温度差や実力差を肌で感じてきた愛生にとって戸惑いの世界でした。

 始め愛生が紅茶街の人たちが何を言っているか分からなかったのは、この温度差があったからだと思っております。どうして話が通じないのでしょうか?実際は通じているのですけどただ捉えるスピードが違っただけでした。報連相なんてものも無いのかもしれませんね。ただ自分のペースで自分のやりたいようにやる、無意識的に愛生はそんな紅茶街の人達に違和感を持っていたのかも知れません。ですけどその協調性こそが今の愛生に足りないものでした。どんなに能力があっても人は一人では生きていけない。隣にいる人と肩を並べてリズムを揃えて歩く事も大切である。その事を教えるために、ひまわりは愛生を紅茶街へと導いたのかも知れません。

 最終的に愛生はなな様か店長と結ばれて一緒に暮らすことを決意します。もしかしたら、愛生が誰かと共に歩むことの大切さを理解した瞬間、元の世界へ返されるかも知れません。ですが今の愛生であればきっとその事を拒否すると思います。どうしても帰らなければいけなくなったら、きっとなな様も店長も付いていくと思います。今の2人にはそれだけの絆があります。それは紅茶街という甘く穏やかな世界だからこと作り上げる事ができた絆。私たちも時には一息ついて、紅茶でも飲みながらのんびりとした時間を送る必要があるのかも知れませんね。ありがとうございました。


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