M.M アカイイト




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 7 8 86 16〜19 2019/1/15
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<和風伝奇アドベンチャーであり百合を題材にした、非常にゲーム性があり攻略しがいのある作品です。>

 この「アカイイト」はコンピュータゲーム開発会社である「SUCCESS」で制作されたビジュアルノベルです。この作品をプレイした切っ掛けは、時々行っている「私がプレイするタイトルを当てたら好きな作品をプレイさせる事が出来る権利」企画で正解された方からのリクエストです。元々アカイイトというビジュアルノベルがあるのは知っておりました。和風の伝記物という事で私の大好物でもあります。ですが発売当時はタイトルを認知しておらず、その後知った時はコンシューマーでのゲームを殆どプレイしない環境でもありましたので実際に購入し手を動かすという事はしませんでした。そんな中でのリクエストという事で、プレイする機会を強制的に用意頂きとても嬉しく思います。久しぶりにPS2を棚の奥から引き摺り出しましたからね。懐かしいPSコントローラーの感触と共に、プレイ開始しました。

 この作品のジャンルは和風伝奇アドベンチャーとなっております。そのジャンル名の通り、現代の日本にある片田舎の街である経観塚(読み方はヘミヅカ)という架空の地名が舞台であり、そこで主人公である羽藤桂を中心とした不思議な物語が幕を開けます。伝奇物という事で、登場するのは人間だけではありません。古来から存在する鬼と呼ばれる物が桂の周りに集まり、そして別れていくのです。タイトルにあるアカイイトですが、赤い糸と聞けば好きな人との運命を感じさせる恋愛シミュレーションに思えるかも知れません。ですがご覧の通りカタカナ表記であり、加えて伝奇物であるという事はこのアカは恐らく「血」の事を指すのかなと想像できます。事実、鬼が桂の周りに集まる理由は桂の身体に「贄の血」と呼ばれる特別な血が流れているからなのだそうです。何故桂に贄の血が流れているのか、そして贄の血を巡る対立はどれほど因縁深いのか、贄の血に纏わる歴史はどのように紡がれているのか、そんな素直な伝奇シナリオを楽しんで下さい。

 また、この作品は和風伝奇という点に加えて百合という要素も欠かす事が出来ません。主人公である羽藤桂は16歳の女の子です。そして、攻略対象となっている5人の登場人物も全員女の子です。桂の年下の子もいれば年上のお姉さん、正体不明の存在や鬼もいます。共通しているのは、攻略対象に男性キャラクターがいない事、そして血という要素が複雑に関わっているという事です。女の子同士で血ですからね、嫌が応にも想像力を働かせてしまいます。実際、この作品は15歳以上プレイ推奨であり、グロテスクな表現や暴力シーンがあると書かれております。何よりも、パッケージに描かれている羽藤桂とユメイの絡み合った様子がこの作品の方向性を打ち出していると言っても言い過ぎではありません。恋愛要素があるのか、それとも血を巡る因縁の関わりがあるのか、是非その辺りを想像しながらプレイするのも良いかも知れません。

 その他の点としましてはシステム面が挙げられます。この作品には分岐図という機能があります。これは、選んだ選択肢によって物語が分岐していく様子が平面上で図示化されているのです。今自分はどのあたりにいるのか、まだ選んでいない選択肢はどれなのか、辿り着いていないエンディングはどこにあるのか、そういった完全攻略の参考になります。また、エンディングリストも用意されておりますので取りこぼしを確認出来ます。個人的には用語辞典が思った以上に充実していて凄いと思いました。作中の固有名詞について解説しているのは勿論ですが、一般的にな用語についても非常に深堀して解説しております。これだけでかなりの読み応えがあります。その他、既読スキップやバックログなどの機能は普通に備わっております。ただ、今のビジュアルノベルの技術と比較すると既読スキップはやや遅く感じるかも知れません。お使いのPS2のスペックで、場面転換の情報を読み取る時間が結構タイムロスになる気がしました。

 後はやはり声優の方々の演技が素晴らしいと思いました。この作品はコンシューマーですので、アニメなどの第一線で活躍し今でも非常に人気のある声優さんが声を当てております。主人公は2015年に亡くなった松来未祐であり、他にも皆口裕子や釘宮理恵などが参加しております。個人的には、松来未祐のちょっと舌足らずな感じの声がとても印象的にで主人公の印象を決定付けていると思いました。主人公ですからね、一番声を聴きますのでそう思ったのかも知れません。後は釘宮理恵の声を聴けたもの良かったです。私、釘宮理恵の事をちゃんと知ったのは例に漏れずゼロの使い魔のルイズです。ゼロの使い魔のアニメ化は2006年ですが、アカイイトの発売は2004年です。ある意味爆発的にヒットする前の声という事で私にとっては貴重でした。

 プレイ時間は私で17時間20分くらいでした。この作品ですが、エンディングの数が32個もあります。その為当然選択肢の数も非常に多く、同じ個所を何周もする事になると思います。セーブスロットが20個しかありませんので、分岐図を見ながらある程度方向性を絞ってポイントを絞って攻略するのが良いと思います。また、この作品は特定のエンディングを見て初めて解禁するルートもあります。どうしても分岐しないと思ったら一旦おいて別のルートを模索するのも良いかも知れません。割と、各ヒロインの攻略を進めていく中で幾つかのバッドエンド・ノーマルエンドがあり、その中にトゥルーエンドがあるという形式でした。是非最後までプレイして頂き、少女たちを巡る運命を見届けて下さい。きっと尊さに似た何かを感じる事が出来ると思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<時として自分の運命を曲げてでも達成しなければいけない信念がある、それを彼女達から教えて貰いまいた。>

 最後の望ルートのエンディングを確認するまで、全力で突っ走らせて頂きました。羽藤桂のおっとりとしながらも芯のある性格が、この物語の雰囲気を作っておりました。そして何よりも、彼女の身体に流れる贄の血に全てのヒロインが集まってきておりました。一つ一つのエンディングを迎えていく中で明らかになっていく各ヒロインの過去と贄の血を巡る歴史、それらが段階的に分かっていく演出も見事でした。後はやっぱり血の描写ですね。これがあってこそのアカイイトだったなと思っております。

 どのヒロインも、決して周りに譲る事が出来ない信念と背景を抱えておりました。贄の血を巡る人間と鬼の争い、それは数百年も遡らなければいけない因縁を抱えておりました。元を辿れは、陰陽師と鬼神の争いです。その争いに沢山の人や一族が巻き込まれ、そして現在の経観塚が作られました。これを解きほぐす事は容易ではなく、どんな結末を迎えても全員が幸せになる事が無いのかなと思いました。実際、個別ルートのトゥルーエンドにおいて勿論メインのヒロインとは幸せになれます。ですが、他のヒロインは幸せになれないばかりか、場合によっては死んでしまう事もあります。まさにこれこそがアカイイト。大切なのは、全員が自分の信念に沿って行動しそれを達成できたか否かなのかなと思っております。

 それにしても、どのルートを通っても全ての中心は羽藤桂だったなと余韻に浸っております。千羽烏月は鬼切部として、鬼が集まる桂の傍で支える事を決意しました。若杉葛は自身の言霊の力を使い、真のオハシラサマを封じる儀と桂をこの忌々しい世界からの解放を願いました。浅間サクヤは言わずもがな、何百年も生きる鬼として羽藤家を陰ながら支えてくれました。ユメイに至っては桂の従姉でしたからね。両親の代わりにオハシラサマとなり、主の封じ込めと桂の見守りをずっと行う覚悟でした。ノゾミはある意味逆の立場、鬼として純粋に桂の血を欲しがる存在でした。全ては桂の気持ち次第。彼女がどんな決意をするかで彼女たちの運命も自分自身の運命も簡単に変わってしまう、そんな存在が羽藤桂の立ち位置だったのです。

 私としては、トゥルーエンドが最も幸せですが幾つかのノーマルエンドも結構お気に入りです。個人的には、自らも鬼となり主を殺す人生を歩む決意をした「鬼切りの鬼」エンド、そして桂と白花で兄妹いつまでも一緒にオハシラサマとして居続ける「満開の花」エンド、これはかなり至高だなと思っております。共通点は、桂本人が自分自身の人間としての立場を捨てる決意をした点ですね。元々贄の血が流れている特異な体質だったとはいえ、そういった鬼の世界から距離を置こうと思えば幾らでも距離を置く事が出来た立場でした。むしろ、周りの人は桂が鬼の世界にドップリ漬かる事を望んではいませんでした。それが、桂自身がそれを決意し自ら人間とは違う運命を歩む、痺れましたね。「鬼切りの鬼」エンドの最後のCGとか、もうカッコ良すぎでしょう!「満開の花」エンドの最後の笑い声は、逆に涙無しでは見れませんね。

 そういった観点から、個人的に好きなヒロインは若杉葛と藤原望だったりします。若杉葛は若杉家の跡取りとしての自覚を持っている聡い子でした。ですが、自分が原因で命を失ってしまった尾花の責任を取り自らが言霊の使い手となるシーンは、葛が人間としての人生に区切りをつけるシーンでした。あのシーン、正直かなりツボなんですよね。そんな葛の決意もそうですけど、それ以前に抑えきれない衝動に身を任せて尾花にむしゃぶりつく場面が、理性と感情の葛藤が見え隠れして物凄く擽られるし高まるんです!その後桂に本能でかじりつくも目を覚ます様子とか、自分が普通の人間になれない事を自覚し「おねーさんとは一緒にいられません」と悟るシーンとか、もう言葉に出来ない込み上げる物が全身を覆ってました。どうやってこの気持ちを発散しようか暫くベッドで悶えてましたからね!まさに伝奇物の醍醐味といったキャラクターとシナリオでした。

 一方、藤原望はまさかの伏兵という感じでした。一応、メイン級のヒロインを一通りなぞりユメイルートも終わり、最後に少し望ルートがあるなという認識でした。そうしたら、その望が一番孤独で辛い人生を歩んでいたんですもの!短いながらも尊さを凝縮したようなシナリオで一番心に残りました。特に「光は風に」エンドの最後のCG!楽しそうな表情で桂の背中にいる望の様子を見て心から「良かったね」って思いまいた。こういうのも、伝奇物の醍醐味ですね。元々種族も立場も違う立場の2人が一緒にいたいと願う、そしてその実現のために自身の在り方を変えても構わない、その決意に惹かれました。良月は失いましたが、代わりに携帯のストラップという新しい居場所を手に入れました。そして、いつでも傍に羽藤桂がいるんです。やっと、本当の意味で自由になれたんだなと嬉しく思いました。

 全体として、伝奇物らしい不条理感とそれを受け入れ乗り越えようとする登場人物達の決意と奮闘が印象的でした。みんな本気で自分と相手の事を考え、幸せになる方法を考えておりました。そうした想いの強さは時として運営をも超えてみせる、そんな熱量のあるシナリオとキャラクターに感動しました。最後、全てのエンディングを見つけてタイトル画面に戻れば光り輝く槐の木が移りました。やっと、全員の想いが報われたんだなと嬉しく思いました。ゲーム性もあり、キャラクターにも魅力があり、血の演出にも拘りがあったアカイイトという作品、これからも是非形を変えてつつも生涯残って欲しいと思いました。ありがとうございました。


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