M.M 6LDK!




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 6 5 58 1〜2 2014/3/3
作品ページ(無し) サークルページ



<年頃の男女が1つ屋根の下で織り成す心温まる短編集>

 この「6LDK!」という作品は同人サークルである「cocchi-koi」で制作されたビジュアルノベルです。C84で同人ゲームサークルを回っている時に目に留まったことが切っ掛けでして、年頃の男女計6人が1つ屋根の下で生活するというプロットだけでもう私の中でプレイする理由として十分でした。感想ですが、短いながらもコンパクトにまとまった心温まる短編集でした。

 この作品は「吉祥寺 Cool Japan プロジェクト」という企画の元に未来を変えることを夢見た年頃の男女6人が「けやき荘」という建物で共同生活する物語です。もう年頃の男女が1つ屋根の下で生活するという状況だけで何も起きないはずがありませんね。ですがこの「けやき荘」に集まった6人はそれぞれ未来に対して漠然とした想いを持ちながらもそれを形にできないジレンマに駆られていました。言ってしまえば自分が本当にやりたい事に悩んでいるという事ですね。そんな訳で初めは他人だったメンバーとの共同生活の中で6人はそれぞれ自分のやりたい事と大切なものを見つけていきます。

 最大の魅力は6人全員が等身大のキャラクターで大変魅力的であるという事ですね。この6人、性格はもちろん自分がやりたいと思っている事も様々ですので意見や考え方衝突する事は日常茶飯事です。ですがそれは自分が将来どのようになっているのか分からない不安の現れであり、それがあからざまに伝わるからこそ6人それぞれの魅力が引き立ってきます。そして6人それぞれの悩みを解決するのはもちろん自分自身の力だけではありません。隣にはまだ性格はよく知らなくても同じように壁にぶつかっている仲間がいる訳です。不器用ながらもお互いがお互いを思いやった時、物語が一気に進んでいきます。

 ちなみにプレイ時間ですが全体で1時間30分程度でした。更に言えば男女3人ずつの計6人の物語ですのでそれぞれ個別のシナリオはもっと短くなります。個別シナリオは小説にして大よそP50の分量ですかね。それだけにあっさりしておりちょっと暇を潰したいと思っている人にピッタリかも知れません。そういう意味で壮大な伏線がある訳ではないですし重い命題がある訳でもありません。ですがプレイヤーに伝えたいテーマはハッキリしておりましたので、その部分を感じ取れれば十分なのかなと思いました。若い時のどこかに置いてきた気持ちを取り戻せる、そんな気にさせてくれる作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<他人と触れ合うことは怖い事、それでも愛があれば乗り越えることは出来る>

 後味の良い心温まる物語でした。どこか悩みを抱えていた男女6人がそれぞれ大切な人を見つけお互い力を合わせて1歩前に進むシナリオはボーイミーツガールの王道であり、後腐れなくスッキリと物語を締め括る事が出来ました。それと同時に相手を信頼するという事は言葉以上に難しい事であるという事も合わせて感じました感じました。

 男女6人という事で3組の物語が用意されてましたが、そのどれもに共通している事が他人と触れ合う事の怖さだった気がします。五郎は自分の書いている詩は自分の孤独の中でしか作る事は出来ないと決めてましたが、その実は自分が作った物が他人に受け入れてもらえるか怖いという事でした。隆雪も自分が本当にやりたい事に全力を出して、もしそれが報われなかったら怖いという気持ちがあり本当の意味で自分が今やっている事に自信を持てないでいました。愁も根底には他人と関わることが怖いと思っている所が有り、自分の行動が受け入れられないのは周りの人が悪いとある種の逃避に走ってました。3人が3人とも抱えている悩みは誰もが必ず経験する悩みであり、そのどれもが自分自身で乗り越えなければいけない悩みでもありました。

 そんな人生の命題とも言える悩みを解決してくれたのは一緒に生活している女の子でした。彼女たちも同じように自分のやっていることが他人に受け入れられるか怖いという当たり前の気持ちを持っておりました。だからなのでしょうか、彼女たちは一緒に生活している見ず知らずの男に対して敏感に同じ匂いを感じ一緒に乗り越えていこうと思ったのかも知れませんね。1人で乗り越えられなければ2人で乗り越えればいいのです、怖気付きそうになった時は相手に励ましてもらえばいいのです。そんな簡単な事で案外壁は超えられるものでした。そしてそれは友情から恋に変わり、そして掛け替えのないものに変化していきました。とにかく甘酸っぱくそれでいて1歩前に進む事ができた6人です。未来に進む姿にエールを送りたくなる、そんな羨ましくさえ思う物語でした。

 それでも彼ら彼女らは幸運だった事を忘れてはいけません。たまたま男3人女3人だったので必然的にパートナーとして惹かれあったのかも知れません。これが男4人女3人だったら1人余ってしまいますね。それが私だったらもう耐えられなくてこのけやき荘出て行ってしまいます。それでもそんな中でもこのけやき荘を愛し一緒に巡りあった男女を祝福しながら自身も絶対の愛を見つけた物語が隠されていました。ちょっと泣きそうになりました。それは決して2次元しか愛せなかった寂しさからくるものではありません。たとえ2次元でも自分が過ごしたけやき荘の名前を付けて全てを愛そうとした想いにです。創作とは時に絶対的な孤独に苛まれ挫けそうになる事だと思います。ですがこのけやきちゃんを生み出した彼のように絶対的な愛は存在するのかも知れませんね。

 という訳で短編でありながら自分自身と見つめ合い相手を見つめ合う中で本当にやりたい事に向けて突き進む気持ちを得るシナリオは心温まるものでした。そしてそんな気持ちを後押しするものはやはり愛であり、その形は人の数だけあるという事も感じました。「吉祥寺 Cool Japan プロジェクト」の目的、それはとりあえず男女を1つ屋根の下で生活させることそのものだったのかも知れませんね。彼らに輝ける未来が待っている事を祈るばかりです。


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